この人のためなら。
私は幾らだって非道になれるのだろう。
「本当に、いいのか?」
この日何度目かの問いに、私はその度に噛み締めて返事を返す。
「うん、いいよ」
同じ質問を繰り返すのは、この人の心配性の表れで。
それはこの人がとても優しいから。
「いつも、血の匂いがするような。そんな危険な場所でもか」
「うん。どんな危険な場所でも。晋作さん達のためになら、私は大丈夫」
そう、大丈夫。
だって貴方達の……貴方のためだもの。
なら、私はどこだって平気。
「…………嘘だろ」
ポツンと晋作さんは言った。
まるで、私の本心を覗いたみたいに。
「嘘だ。怖くないわけ、ないだろ。俺の前では、嘘つくなよ」
「うん…………怖い」
そうやって、抱き締めてくれる貴方が居なくなることが何よりも怖いの。
貴方の温かいぬくもりが、なくなってしまうことが怖いの。
「でも、大丈夫」
大丈夫、大丈夫。
何度も繰り返す。
大丈夫、きっと上手くやれるわ。
だって。
「居場所が変わっても、貴方を想う気持ちだけは変わらないもの」
長州の人を、何人も斬り殺してる新撰組の元へ行こうとも。
絶対に私の想いは変わらない。
私にとって、貴方ら私の世界の全てなの。
どこに居たって、中心は貴方なの。
「…………そんな顔、しないで」
不安そうに、哀しそうに。
晋作さんの目は、ゆらゆらと揺らぐ。
「晋作さんの、そんな顔が見たくて間者になるわけじゃないの。…………笑って」
ほぐすように、そっと両頬を包む。
「お願い。笑って?」
私の大好きな笑顔で見送ってよ。
そしたら、私の心の底で燻ってる不安は消えると思うの。