回想



ーーー


「なんか、降りそうね」

「そうだね、ちょっと急ごうか」


 そのとき、水滴が頬を伝った。これは………。


「なっ、降ってきたわよ!?」


 空を見上げると重い曇色の雲が一面を覆っていた。
 アスファルトが濡れて色を濃くしていく。

 くそっ、駅に着く前に降り始めるなんて。


「こうなりゃ強行突破だ!走るぞ!」

「はぁ!?って、ま、待ってアタシあんたの足に着いてけないわよっ!」


 ハルカの腕をつかんで走り出そうとするも、ハルカは立ち止まる。

 そうだ、こいつは足遅かったな。


 そうしている間にも雨足は強くなる。いつまでも突っ立っているわけにはいかない。

 仕方ない。後でハルカに怒られそうだけど、これしかない。今は急ごう。


「なら、こうすりゃいいだろ。ちゃんと掴まっとけ、OK?」


 そう言ってハルカをお姫様だっこした。


「ひゃっ!な、なにすんのよ!下ろしなさい、バカ!」


 ハルカはバカとか言ってポコスカ殴ってくる。………痛くないけど。
 ったく、人が心配しての行為なのに。こいつは。


「黙れ。お前が風邪引いたらどうすんの」

「へっ?」

「だから、大人しく担がれてろ。走りにくい」


 何故か、そのあとは驚くほど静かだった。


ーーー


回想終了