【短編】スキキライダイスキ

きっと大丈夫。苦しくても─持ちこたえてみせる。

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あ、運いい私。ファイナルの最後。

六対五なんてすぐに終わらせてやる。

グリップの吸い付くような感触に懐かしさを覚えながらボールを投げて。

バシュッという音を響かせて打ち込む。

「何あのサーブ…」

観衆の声が耳に心地よい。でも油断はできない。

思いの外続くラリー。

前は、これだけで息切れなんかしなかったのにな。
悔しい。

「蕾!ラストワン!」

分かってるよ、小梅。

見えにくい狭い視界と、苦しい心臓。

テニスをするのに最悪なコンディションで頼りになるのは昔の自分の感覚だけだ。


相手がストレートを少し空けた。今だ。

「ゲームセット」

審判のコールが響いた。


「…っ」

無意識に膝がくずおれていく。心臓には激痛が走るし、もう立っていられない。

「蕾っ!」

不本意な涙で霞んだ視界に、小梅のボロボロな顔が映る。

「小、梅…なに泣いてんの…」

「当たり前でしょ!?」

「はは、ブッサイク…」

どうにか気丈に振る舞うけれど、小梅の顔は涙でぐしゃぐしゃだ。

ごめんね、小梅。
またそんな顔をさせてしまった。

私がワガママを言うたびにそんな顔するから。

もう心配かけたくなかったのに。


いつの間にか乗せられていた救急車の扉が閉まる直前。


必死な、心配そうな、ものすごい形相をした日向が見えた。