【短編】スキキライダイスキ

「蕾」

大丈夫なのか、と視線で尋ねてくる小梅。

「大丈夫」

胸が、悪い動悸を奏でているけど。

小梅に余計な心配はかけたくない。

動悸を静めるようにお茶を飲み、目をつぶる。

すると、

「──え、嘘」

「きゃああああ!」

小梅の呟きと女子の絶叫が重なった。

「日向くんすごーい!何あのコースー!」

女子は半狂乱。日向が勝ったみたいだ。

良かった。

「…蕾ぃ」

「何?」

「あれ、蕾のコースじゃん」

「そうだね」

聞き流そうとしていると、

「蕾ちゃん!」

日向。

「すっごいね蕾ちゃんの言う通りにしたらまじで勝てた!」

「…それは、まあ、良かった」

私もとことん素直じゃないな。
自分の作戦で勝てたのは嬉しいし、テニスができる日向が羨ましくて仕方がないのに。

日向の眩しいくらいの笑顔を眺めていると、またコートで悲鳴が起こった。

今度は称賛でも憧憬でもなく、

「桃ちゃん大丈夫!?」

女子決勝で桃ちゃんが顔面にスマッシュを受けたらしく、その衝撃で油断して転んだらしい。

足をぐねったようだ。

「誰か補欠!出して!」

……桃ちゃんの補欠って。


「桃さんって蕾の正選手じゃ」

小梅が焦ったように私の手を掴んで引き止めた。

「蕾ちゃんごめんね、」

桃ちゃんの悲しそうな顔。

「えー、松原さんってテニスできたっけ?」

周りの視線。



全部に───ムカついた。



「行ってくるね、小梅」

「ちょっ、ダメだよ蕾!」


ラケットを受け取り、コートに入った。