午前10時を少し過ぎた頃。私とゼストはリョウくんを連れて街に出ていた。リョウくんが外で遊びたいと言うので、アスタさんやソウヤさんに許可をもらってきたのだ。


「お前ら絶対に離れるんじゃねーぞ」いつものようなけだるげなトーンでゼストが言った。


「いや待って。お前“ら”って何。なんで私まで入ってんの」


リョウくんはわかる。でもなんで私までリョウくんと同じ扱いにされるのか意味がわからない。私もう16歳だからね。そんなそこらにいるガキんちょよりずっと大人だからね。


「お前、自分が影薄いこと忘れたのか」


「……うっさい。忘れてないわバカ」


はぐれたら俺が探しに行く羽目になるんだぞ、と不貞腐れたように言うそいつ。むかついてつい忘れてないとか言っちゃったけど、こういう忘れた頃にダメージを与えてくるところが何と言っても腹立つよね。


でもまあこいつの言っていることは間違っていない。何度も言うように私は影が薄いのだ。それはもう、どうしようもないくらいに。


昨日からはリョウくんが来て、その相手をされたり名前を呼ばれたりして影の薄さを思い知らされる時間は減っていた。でも、たぶんこれが一番危険なんだと思う。これが“当たり前”になっちゃいけないことを、私は忘れてはいけないんだ。


結果的には私とゼストの間にリョウくんが入り、彼の両手を私とゼストで繋ぐという形に落ち着いた。


手を握られて、どこか嬉しげに微笑むリョウくん。近くに誰か大人(といっても私たち二人はまだ未成年だけど)がいるだけで何か違ったように感じるのだろう。出張とはいえ、全然知らない人たちの中に置いて行かれて、三日間もその人たちと過ごさなきゃいけないんだもんね。寂しさはもちろんだけど、ストレスだってあると思う。


「ルナ! 僕ね、アイス食べたい!」


「はいはい。じゃあアイス屋さん見つけたら教えてね」


昨日お昼ご飯を作ていたあたりから、なぜだかリョウくんは私のことを「はってんとじょうのお姉ちゃん」と呼ばなくなった。いやちゃんと名前で呼んでくれることについては嬉しいことこの上ないんだけどね、なんか変な感じっていうか……何かあったのかなと少し心配になる。


「やったぁ! ありがとうルナ!」


憎まれ口のようなものも減った。昨日よりはずいぶんと子供らしく見える。でもきっと、これが本来のリョウくんの姿なのだろう。


昨日遊んであげられなかったから今日はその分も満足させてあげますよ、お坊ちゃま。