誰にも見えないその影を




「――ていうかあんた、リョウくんは?」


別の話題に強制的に転換しないとなんだか自分に不利になるような状況になるような気がした。なんたって、相手はあのゼストだから。なんだかんだ言って変に鋭いから、こいつ。厄介なことこの上ない。


「あのガキんちょなら寝てる」


そりゃもうすやすやと、と付け足すそいつ。まあご飯を食べた後だし、うざい部分はあるけれどまだ子供だし。寝ちゃうのが普通か。


「寝かしつけたの?」


でもあんなに元気だったし遊びたがっていたリョウくんだ。お腹がいっぱいになったからといって、そう簡単に眠りに入るとはとてもじゃないけど思えなかった。とすれば目の前にいるこの幼馴染が……ってことになる。


そういうちょっとした期待のようなものも込めて聞いたのだけれど、


「なんで俺がそんなめんどくせえことしなきゃなんねえんだ」


ですよねー。いやまあ知ってたけどね。こいつがそんなジェントルマン的なことをするようなやつじゃないってことくらい知ってましたけどね! 知ってたけど、ほんの少しでも期待してみたいじゃん。結局はそんな私がバカだったってことを思い知らされただけだったけどさぁ。


「……あ、そう」


なんだかリョウくんへの罪悪感のようなものが芽生える。


ここにリョウくんと同年代の子供はいないし、遊びたいと言ったのに断られるし。そりゃ寝るしか方法だってないよね。


……本当は、リョウくんが「かくれんぼがしたい」と言ったあのときに「いいよ」という簡単なたった一言を私が言えていればよかったんだけど。


――ごめんね。


私はまだ、『あのとき』から抜け出せていないようで。『あのとき』のまま、何一つとして変わることができていないようで。


「ルナ! ルナ!」とあれだけ私の名前を呼んでくれていたのに、それでもやはり、まだ怖い。


そのうちリョウくんゼストも、私のことが見えなくなってしまうような気がした。


いつの間にか忘れられていく。これが一番怖くて、私にとってはきっと死ぬことよりもつらいことだと思う。


まあ、誰も私なんかのことを考えないのは目に見えてるんだけど。それでもやっぱり……ね。


それからゼストはなんだかむすっとしているように見えたけど、まあ愛想悪いのはいつものことだから気にはしなかった。


リョウくんも夕方まではずっと眠っていて、みんなが帰ってきた後もとても静かだった。あんなに無邪気に騒いでいたのにと少し心配ではあったけど、夕飯も全部食べたしきっと大丈夫だろう。


明日は今日よりももう少し、リョウくんのそばにいてあげよう。この状況で一番寂しいのはきっとリョウくんだ。


私が自分の都合で寂しがってちゃ、ダメなんだ。