「――で」
なぜだか知らないが突然声のトーンが下がったことに対して、思わずびくりとしてしまう私。その声を、私がまだ“あの音”の名前を知らなかったときに聞いた彼の声と重ねてしまう私。
――……ていうか何考えてんの。ばかなのか私は。
正常でいられなくなってしまう前に、首をぶんぶんと振ってあのときの彼の顔や声、そして香りまでをも消し去った。
「お前は俺を残して一人であのガキんちょから勝手に逃げようってか」
「っ…………」何の前振りもなくド直球で聞いてくるそいつに対し、私は何も言い返すことができない。
逃げる。
逃げる……か。
下手な嘘はこいつの無駄な鋭さによってすぐにばれる。こういうことだけは、こいつにはわかってしまうのだ。そんなことは私が一番よく知っている。
でも。
「……私が片付けしなきゃなんないでしょ。それとも何。あんた代わりにやってくれんの?」
相手が幼馴染だろうと好きな人だろうと、言えないもんはどうしたって言えないのだから仕方がない。その代わりに私は、下手な嘘はやめて上手な口実を作る。
かくれんぼが怖いなんて、絶対に言わない。たとえそのことをこの幼馴染が知っているとしても、私からは絶対に言わない。そう決めたのだ。
「んなめんどくせえこと誰がやるかバーカ」
罵倒とともに返ってくるのは、予想通りの「やらない」という言葉。まあ、そこで「やる」なんて言われてしまえば私はリョウ君の世話をゼストの代わりにしなければならなくなってしまうため、彼に頷いてほしいなんてこれっぽっちも思っていなかったのだけれど。
「どこぞの幼馴染が一人で寂しがってんじゃねえかなと思って見に来てやっただけだ」
……はぁ。ホント、何なのよこいつ。最近マジで頭おかしくなってんじゃないの?
そんなこと言わない人間だったじゃん。なんで最近になってさらりと言うようになってんの? そんなカッコよさげな台詞とは無縁の人間だったじゃん。どこで覚えてきてんのそんな言葉。
「……別に寂しがってなんかないけど」
ああ腹立つ。こんな幼馴染のこんな言葉にときめいちゃってる自分に腹が立つ。ていうか私、なんで嬉しがっちゃってんの。いや嬉しいのは紛れもない事実なんだけどさ、なんかこう……アレだよ、うん。
なんか、「私はやっぱりこいつが好きだ」と思わされているようで、ちょっと悔しかったりもする。
……好きだからまあ仕方のないことなんだろうけど。



