時刻は午後12時15分。場所はキッチン。
私はリョウくんと共にお昼ご飯を作っている真っ最中だった。
なんか静かだなと思ったら、リョウくんが黙ってしまっていた。
「リョウくん。どうかし――」
「ねえルナ」
言葉を遮られる。さっきも思ったけど、なぜに呼び捨て? でも“発展途上のお姉ちゃん”と呼ばれるよりは幾分マシだ。距離が縮まったような気がして、ちょっと嬉しくなる。
ところが私の言葉を遮ってまで私の名前を呼んだ少年は、どうしてか私と目を合わせようとしない。
「リョウくん……?」
リョウくんの顔を覗き込む。彼はそれを拒否するように顔を背ける。あんなにも元気にはしゃいでいたのにずっと俯いたままだから、さすがに心配だ。
「…………ごめんなさい」
聞き逃してしまいそうな、とてもとても小さな声。私から逃げるように顔を反対側に向けているため、より一層小さく思えた。でも、彼にとっては残念かもしれない。
……バッチリ聞いてしまったもの。
「気にしてたんだ、コレ」
私は自分の頭に巻かれた包帯を、ニッと歯を見せながら指さす。嫌味でやっているわけじゃない。
会議室に戻ったときに見た、この子のあの顔。それはほんの一瞬だったけれど、私は見逃さなかった。何事もなかったかのように無邪気に笑っていたけれど、やっぱり子供。隠しきれていない感情が顔に出ている。
ようやく目が合ったと思えば、申し訳なさそうにこちらを見続けるリョウくん。
「……バカだねえ、君も」
ほんと、私に声をかけてくる奴はどうしてこうもバカなのだろう。
リョウくんは私を見る目を離そうとしないが、表情は一転して驚いていた。面積的には白目の方が大きい気がする。
「子供はそんなこと気にしなくていいの。子供は子供らしく、元気に遊んでればそれでいいの。わかった?」
かなり痛かったのは事実だけど、この程度の怪我ならどうってことないし。そんなことで子供が気にしてしまうなら、ゼストにあんな怪我をさせてしまった私はもっと罪悪感を抱かなければならないのだ。
「…………うん」
小さく頷く少年。午前中の様子から見ると何も考えていないただの悪ガキって感じだったけど、根は素直ですごくいい子みたいだ。
「ほら、作ろう。ゼストが待ってる」
私がそう言うと、少年はもう一度頷いた。
誰かが私の近くにいる。誰かとこうして会話ができる。誰かが私に声をかけてくれる。
当たり前なんだろうけれど、私は自分の影の薄さのせいで当たり前ではなかった。
私にとっての“当たり前”は、誰にも見つけてもらえずに、誰にも声をかけてもらえずに、そして存在すらも忘れられる。
一緒にかくれんぼをして遊んであげられないのは申し訳ないけれど、とりあえず今は、あちらからの言葉に返事をするというやりとりが正常に行われていることに安心している。



