誰にも見えないその影を




ゼストに言われた通り、リョウくんはじっと座って待っていた。


「やあやあリョウくん。ちゃんと待ってたんだね。偉いじゃん」


私を見た瞬間のリョウくんの顔は、少し暗かったように思えた。だから私も、ゼストがあのときしていたように、不敵に笑ってみせた。すると安心したのか、またさっきの明るい表情に戻った。


子供って、本当に素直で単純でわかりやすい。だからこそ可愛く感じてしまうのだろう。


「だろ! 僕えらいだろ! だから遊んでよ! はってんとじょうのお姉ちゃん!」
「そういう呼び方やめてくれない?」


……訂正。この子は全然可愛くありません! 最後の一言がなければパーフェクトだったのに。大きくなってからが心配だよ私。


「俺はこっちやっとくから」そう言うゼストは既に机に向かっており、まだまだ分厚く積まれている書類を読み始めている。


「しばらく気晴らしに遊んでこいよ、発展途上のお姉ちゃん」
「だからその呼び方やめてくれる!?」


この男二人がタッグ組んだら誰も勝てないよコレ。とんだドSコンビだよコレ。ゼストの影響を受けてこの男の子が道を踏み外さないことを願うばかりだ。


「――で。リョウくんは何して遊びたいの?」


少年リョウくんに向き直り、そう聞いてみる。なんかロクでもないことを言い出しそうな気がするのだけれど、まあ相手は子供だしね。とりあえずってことで。





「僕、かくれんぼしたい!」





……かく、れんぼ…………。


久々に耳にした、その遊びの名前。『あの日』以来避け続けていた、それ。忘れることができなくて、いつまでもずるずると引きずっている私。


一度隠れたら、誰も私を見つけられなかった。それどころか、私が参加していることすらみんなの頭の中から消えていた。最終的にはゼストが迎えに来てくれたけど……


また、あんなふうになってしまうのだろうか。


「……ごめんね。お姉ちゃん、隠れるの下手だから……リョウくんにとっては楽しくないと思うんだ」


だからできない、と断る私。でもそれは、自分を守るためだけの、ただの言い訳。それは私だってよくわかっている。でもやっぱり怖くて、見つけてもらえないかもしれないと考えてしまう自分がいる。


リョウくんだって、隠れてばかりじゃつまらない。だから、探す方もやりたいと言い出すのは目に見えている。そうなれば、私は隠れなければならない。


見つかるまで、ずっと――。


そのときの静寂や寂しさが、私にとっては得体の知れない恐怖なんだ。


「……………………」