午前9時25分。場所は二階の会議室。
面倒を見るなら広い部屋の方がいいということで、私たち三人はこの部屋にいるのだった。
「ねえねえお兄ちゃん、遊ぼうよー!」
男の子・リョウくんはとても元気だ。とにかく遊びたくてたまらないらしい。なんとなく、あの男の子と姿を重ねてしまう。名前、聞いておけばよかったな……なんて。
「俺は書類整理してんだ」
それに対して、そう言うゼストはちょっと冷たいように思える。相手は子供だし、元気に遊ぶ年頃なんだからもう少し優しく接してあげればいいのに。
「そんなに遊びたいんならあそこの姉ちゃんに遊んでもらえばいいだろ」
「えっ」
ゼストの言葉と共に向けられる、彼の人差し指。予想もしていなかった事態に、思わず驚きの声が漏れる。ていうか私も書類の整理してる真っ最中なんだけど。そういう意味も込めた目線で彼を見ていると、
「俺よりお前の方が子供の扱いには慣れてるだろ」
この前だってガキんちょ助けたのはお前だしな、とのこと。この前、と聞いてすぐに出てくるのはあの男の子しかいない。……なんだ。なんだかんだ言って覚えてたんだ。あんな朦朧とした意識の中でも、その子のことは頭の中に入れていたようだ。それを聞いて、私は少し安心する。
気がつけばリョウくんは私の顔をじっと見ていた。心なしかこの子の目がうるうるしているような気がする。そんな可愛い目で見つめないで……! そんな可愛い顔して遊んでビーム出さないで!
……こういうのに弱いのはアスタさんだけではないらしい。思わずきゅん♡としてしまいそうな彼の瞳に、私は屈服したのだった。
「おいで。お姉ちゃんが遊んであげ――」
「ねえお兄ちゃん、この人全然胸ないんだけど」
なっ…………! さっき見てたのってそっちだったのかよ! ていうかその歳でどこ見てんだこの子供! ちょうどお茶を飲んでたゼストはこの子の発言に吹き出してるし! そりゃそうだよね! こんな可愛い子があんなこと言うなんて誰も想像してないもんね!
「アホかお前」口元をティッシュで拭いて落ち着いたのか、真剣な顔を少年に向けてゼストが言う。「いいか。あれはまだ発展途上なんだよ」
いやアホはお前だよ! 子供相手に何吹き込んでんの!? 確かに発展途上ですよ認めますよもちろんですとも。
でも! それをわざわざ人……しかも子供に言うな!
……何なのこの二人。二人して私をいじめようってわけ? うわー腹立つ。なんて礼儀正しい子なんだろうと思ったあのときの私にタイキックしてやりたい。
リョウくんのお世話は今日から三日間。それはそれはとんでもない始まり方でした。