【side ゼスト】
「俺のこと避けてた理由を聞かせてもらおうか」
俺のその言葉から始まった、ルナにとっては地獄であろうこの時間。
――お前帰ったら洗いざらい吐いてもらうからな。
いろいろあって聞きそびれていたが、やっとちょうどいい機会がやってきた。仕事が始まるまでまだ50分もある。そのうちに聞けることだけでも聞いておきたかったのだ。ルナをいつものごとくこの部屋に連れ込んだのもそのためだ。
何を恐縮しているのか知らないが、ずっと身体を縮ませている。例えるなら、何かに怯えた子犬。気の強いときはキャンキャンうるさいくせに、こういうときになると途端に小さくなる。
質問すれば、同じ空間にいたくないだとか気まずかっただとか、地味に精神的ダメージ与えるようなことを答える幼馴染。でも、なんとか答えようとしてくれているからまぁよしとしよう。
「好き、だったから……」
そんなことを考えていると、とんでもない言葉が耳に入ってきた。
「ゼストが……好きだった。だから――」
その先にどんな言葉を用意していたかなんて俺は知らない。気づけば俺は、目の前にいる幼馴染を抱き寄せていた。三週間前と同じ、幼馴染の体温。
でも。
いつからか俺は、こいつを“幼馴染”として見られなくなっていた。そのことに気づいたのは、本当に最近のこと。
可愛くて、恋しくて、愛おしくて。
俺にとってのそいつは、“ただの幼馴染”なんかで終わらせられないほど、とても特別だった。だから俺は彼女の姿を見つけることができるのだ。
『あの日』から、ずっと――。
自分からこいつの中に溜め込まれている理由を聞き出そうとしたくせに、いざ耳にした答えが“それ”だとわかると勝手に身体が動いていた。
昔から影の薄いそいつが俺のそばにいることを確認するように、俺は抱きしめるその腕に力を込める。消えてしまわないように、見失ってしまわないように、彼女の存在を確かめるように、その腕でしっかりと彼女を支える。
……まったく。
「これからちょっとずつ惚れさせようと思ってたのに。これじゃ俺の計画が台無しだ」
どうしてくれるんだルナ。体勢を変えることなく、彼女にしか聞こえないように、そのままの状態で彼女の耳元でそう囁く。
三週間前のあの日と同じだ。彼女の心臓の鼓動がこちらにまで伝わってくる。その音と共鳴するように、俺の鼓動まで激しくなる。
今度は、仕掛けなんかで終わらせない。
本当はずっと伝えようと思っていた。でも、断られたり嫌われたり、この関係が変わってしまったりするのが怖かった。
でも。お前がそう言ってくれるなら、俺の答えはもうとっくの昔に出ている。10年も前から。
「好きだ、ルナ」
本当は俺から伝えるつもりだったのだが、そんなことを言っている場合ではない。この機会を逃してしまっては、これから先もずっと言えなくなってしまいそうな気がする。
だからきっと、これでよかったんだ。
やっと、言えた。