誰にも見えないその影を




自分から話しますと言った私だけれども、どこからどう話せばいいのかが全くわからない。


「――じゃあ」


2分経ってもなかなか話そうとしない私に痺れを切らしたのか、ゼストが口を開いた。私としてはそんなふうに促してもらった方がまだ少しは話しやすいかもしれない。


「俺のこと避けてた理由を聞かせてもらおうか」


……なんだろう、俺が権力者だみたいなこの言い方。余裕のない私に向かって余裕ぶっこいてる幼馴染。


理由、か……。今はもうはっきりしている。自分の中で、ちゃんと形になった理由が存在している。言葉にできるかどうかはさておき、まだわからなかったあのときとは違う。


「……なんとなく、同じ空間にいたくなかった、から」
「地味に傷つくわ」


だって仕方ないじゃん。本当のことなんだもの。同じ場所、同じ空間にいるだけでおかしくなってしまいそうだった。まして面と向き合って、なんてできるわけがない。


「じゃあ何で同じ空間にいることが嫌だったんだ」


……そんなに深く掘り下げないでよ。私にも限界ってものがあるからね。自分で話すとは言ったけれど、未だに話せないことだってあるからね。


でも、まだこれくらいならなんとか……。


「気まずかった、から……。だからその、敬語もそんな感じで……」


「何で気まずかったんだ」


一番答えたくない質問キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!! 躊躇ないなマジで! 言えませんって答えたいんだけどそう言ってもいいかな大丈夫かな大丈夫だよね拒否してもいいよね!


「それは……ちょっと――」
「あーちなみにお前に拒否権とかねえから」


最悪だァァァ! 何でそうなる! こっちのことも少しくらい考慮してくれてもいいんじゃないの?


……………………はぁ。


もういいかな。いいよね、もう。黙っていたって“あの言葉”をゼストが覚えている限り、それは話さなければならないこと。いつか知られてしまうのなら――。


「そのときは、まだ、わからなかったから……」


言葉を詰まらせながらもなんとか文章にしていく私。今から知ることになるであろうその理由を耳にしたとき、ゼストはどう思うだろう。どんな顔をするだろう。


気持ち悪いとか思うかな。もう私は声をかけてもらえなくなるのかな。出て行けとか言われるのかな。


最悪のパターンばかりが頭に浮かぶ。今までが幸せすぎたかもしれない。覚悟、決めた方がいいのかな。


「好き、だったから……」


言ってしまった。


「ゼストが……好きだった。だから――」


言葉を繋げようとしたその瞬間、私は何かの力によって身体ごと前へ引き寄せられた。