時刻は午前8時10分。場所はゼストの部屋。
「お前覚えてるか?」ゼストが言った。
「あの男の子のことでしょ? もちろん覚えてるよ」
ついさっきまであの子のことを考えていた私は、すぐさまそのことだと思った。なんだ、ゼストも覚えていたんだ。これはあの子も絶対に喜ぶだろうなぁ。ますます報告してあげないと。
ところが。
「そっちじゃねーよ」バッサリ斬られた。
頭に『?』を浮かべていると、その前のことだ、と言い出すそいつ。それでもピンとこないまま『?』を増やし続ける私に呆れたのか、長いため息をつき、“あの言葉”を言った。
「――お前帰ったら洗いざらい吐いてもらうからな」
なぜにこのタイミングゥゥゥ!? このまま忘れていくれればよかったものを……!
三週間前のあの日。あのボロボロの家に乗り込む直前にゼストが言ったあのセリフだ。まだ心臓のあの音の原因がわかっていなかった私は、とりあえずゼストと距離を置こうと口調をわざと敬語にしていた。少し触れられただけでも冷静でいられなくなって、物理的な距離も置いていた。
私がそういう行動を取ってしまう理由を断固として話そうとしなかったから、ゼストがそう言ったのだ。帰ってからはそれどころじゃなかったから結局は免れたと思っていたけれど、こいつはしぶとく聞き出そうとしていたようだ。
「このタイミング逃すとまた聞けなくなりそうなんでな」
ニヤリと怪しく笑いながら、一歩ずつ距離を詰めてくるゼスト。
あれ? この詰め寄ってくる感じ、前にも確かあったよね。でもあのときとは違う。オーラが半端なく黒い!
「選択肢をやる。自分から吐くか、俺に無理矢理吐かされるか。どっちか選べ」
いやどっちも結果変わらないだろ! 最終的に話さなきゃいけないことに変わりないじゃん! 選択肢の出し方が鬼だよこいつ!
あぁー……いつの間にか背中と壁がおはようございますをしている。そして目と鼻の先に、彼の顔がある。鼓動も速くなり、その音も大きくなっていく。……また、このパターンだ。ダメだよ、ほんと。
そんな優しい顔しないでよ――。
「……わかった。話す」
私は自分から話すことを選んだ。そりゃ誰だってそうだと思う。無理矢理って怖すぎるもの。何されるかわからないんだもの。それなら自分で言った方がマシだよね、うん。
……さて。どうやって話そうか。



