「――いやそれ前にも聞いたけど」
いかにもめんどくさそうな顔で私にそう言い放つのはソウヤさんだ。
「知ってます。だって前にも話しましたから」
午後4時。私はあれからソウヤさんの部屋に行って、以前にもした友達(架空)の話をもう一度していた。じゃもういいだろ、とソウヤさんは言うけれど、私はよくない。
“それ”を知ってしまった。“それ”に気づいてしまった。自分の中に芽生えた“それ”を認めてしまった。受け入れてしまった。
でも、自分ではどうすればいいのかがわからない。誰かがなんとかしてくれるとも思ってはいないけれど、でも誰かにはっきりと言ってもらいたかったんだと思う。
「とにかくですね、その女の子は気になって仕方がないんです! 胸がきゅっと苦しくなって、それがとてもつらいそうなんです!」
「はいはい。つーかそれ、お前だろ」
「そうなんですよ私なんで………………え?」
ええええええええええええええ!?
「なっ……何でわかるんですか!」
キロさんに話したときもそうだった。キロさんはゼストの名前を出した。そしてソウヤさんは私の名前を。私は一言も自分やゼストの名前なんて出していないはず! それなのにどうして二人とも……。
「何でって言われてもなぁ」
困ったなと言わんばかりの顔をするソウヤさん。いやソウヤさん、その顔はたぶん私がすべきものだと思われます。まあいいや、とソウヤさんはあっさりとその問題を放棄。そして、
「それはいわゆる“恋”ってやつだよ」
「あ、やっぱり」意外と落ち着いていられる自分に少しびっくりした。
「やっぱりって何だよ。つーか気づいてんならわざわざ来る必要ねえだろ」
「なんとなくわかってたんです」
そう。私はわかっていた。
“それ”の名前も、全部わかっていた。
「でも、それを自分であぁそうなんだって頷くことができなくて……」
全部わかっていたから、だからこそ誰かにそうやってきっぱりと言ってほしかった。自分ではやっぱりまだ怖くて、でも誰かに言ってもらうことでもうその事実から逃げられないようにしたかった。向き合おうという気持ちにしてもらいたかった。
「だいたいお前らはな、遠回りしすぎなんだよ」
気づいたんなら言っちまえばいいだろ、とソウヤさん。
簡単に言ってくれるなぁ。言えないからこうやって話だけでも聞いてもらおうとしているのに。あとお前“ら”って……。私以外に誰がいるというのだろう。
この言い方からしてソウヤさんはその人物を知っていると考えられる。でもどうやら教えてくれそうにないみたい。
ソウヤさん曰く遠回りをしている私以外の存在を知ることになるのは、もう少し先の話になりそうだ。



