「アスタさん。私です、ルナです」


アスタさんの部屋に来たけれど、私はノックもしなかったし扉も開けなかった。


「ゼストが起きました」


ただそれだけを言いに来たのだ。部屋に入ってしまえば、お前も行くぞと無理矢理同行させられそうな気がしたからだ。


これまでのことから考えると、アスタさんが内側から扉を開けてすぐに私の存在を認識することはまずない。だから入らないと決めていた。今の状態では私はもう一度ゼストと顔を合わせることはできない。私も一緒にあの部屋に行ったところで、また気まずい空気が流れることは目に見えている。


「私はもう行けないので、アスタさん行ってあげてください」


「行けないって……どうしたんだ」


扉が開いて、そう言いながらアスタさんが出てきた。いつもならこんなふうに目を合わせてくれることなんてないのに。自分は行けない、ということは言わなくていいことだったかもしれないと思っても、時すでに遅し。


「たいした理由はないんです……けど」


「けど?」


「ちょっと今、気まずいので……」


その言葉とともに頭に浮かぶのは、あの状況。あの声。あの言葉。あの温度。そして、あいつのあの表情。


「へえ」


納得したのかしていないのか、どう解釈すればいいのかわからない返事をされた。そして。


「その話は前にも聞いたけど、間違いないな。100%確定だ」


報告ありがとな、と微笑を浮かべてゼストの部屋へ向かっていった。


……アスタさんは何を言っているのだろう。


前に何か同じようなこと言ったかな。私には全く覚えがない。


いや確かに相談みたいなことはしましたけれども。でもあのときは友達(架空)の話をしただけであって、そんな明確なことを話したつもりはない。それにそんな前のことを今さら引っ張り出されても、今の私は“それ”を知っていしまっているわけだから、意味がないというか遅いというか……。


何が言いたいかというとですね。まぁとどのつまり、アスタさんの言葉の意味がわからないということです。


アスタさんの姿が見えなくなったのを確認して、私は自分の部屋に戻った。