翌日の朝になってもゼストはまだ眠っていた。ナイトさんは大丈夫だと言っていたけれど、やっぱり心配になる。


私は仕事をしばらく休むことになった。昨夜ナイトさんに言われた。君はこいつのそばにいてあげて、と。最初からそのつもりだったからどうしようかと悩んでいたところ、彼がアスタさんに私の仕事の休みについて話してくれたらしい。


昨日復帰したばかりだったから、また休んでしまうのは申し訳ないのだけれど。


――こいつも結構なバカだから、そう簡単には死なないさ。ケロッと目を覚まして、何事もなかったみたいな態度で図々しく笑うと思うよ。


自分でもそれはわかっていたつもりだった。でもナイトさんに言われたことで、あぁそうなんだと改めて感じた。


こいつは、そういう奴なのだ。何を考えているのか知らないけれど、ちょこちょこ私の感情を弄ぶようなことをする。しかも、何でもない顔で。こいつのせいでどれだけ私が焦ったり混乱したりしただろう。


……あんたへの愚痴、一つや二つじゃ終わらないんだから。


でも、あんな悪戯な笑みでも、見ているとやはりどこかほっとする。


今の目を閉じている彼とは正反対で、すごく楽しそうな顔。私をからかって愉快そうに笑う顔。ときどき心配そうに私を見つめる瞳。


あんな状況でさえも、不敵に笑ってみせる彼。


余裕ぶって私とあの男の間に現れた彼。金属バットを素手で受け止めたこいつ。ほんと、バカなんだから。ヒーローみたく現れるなら、もっとカッコよく登場しなさいよね。


「……ゼスト」


無意識のうちに声が出る。自分がこれから何を言おうとしているのか、何が言いたくて声を出したのか、私自身もわからない。


「目、そろそろ開けなよ。私ちゃんとここにいるから」


――勝手にどっか行ってんじゃねーよ。


まるであの言葉の返事でもするように、私は言う。


大丈夫。どこにも行かないよ。私はここにいる。だからさ、ゼストも安心して起きなよ。


気づいたら独りっていうのが一番つらい。それは私が一番よく知っている。『あの日』に経験したのがその状況だったから。『あの日』だけじゃない。浮気調査のときも、昨日も。ゼストは私を迎えに来てくれた。私を頑なに一人にしようとしなかった。


だから、今度は私の番。ゼストが目を覚ますまでは、私はこいつの近くにいよう。起きたらこいつみたいに、何事もなかったように笑ってやるんだ。