「お姉ちゃん、助けてくれてありがとう」
満面の笑みで言う男の子。
「本当にありがとうございました。大変なお怪我をされた方もいて、お礼やお詫びをどう申し上げればいいか……」
隣では依頼人の女性がハンカチで涙を拭っている。アスタさんが彼女と連絡を取り、男の子を迎えに来てもらっていた。
あの場所にいた男たちは一人残らず逮捕された。もちろんこの男の子を誘拐した男も。
後で警察から聞いたことなのだけれど、その男は以前から接近禁止命令が出されていたらしい。それでも彼女への嫌がらせやストーカー行為がなくなることはなかったのだという。
「大丈夫ですよ。気になさらないでください」
アスタさんが優しく微笑む。でもやっぱりその表情は、どこか無理をしているようにも思える。そりゃそうだ。ゼストが目を開けてくれないのだから。
でも悪いのはこの男の子を誘拐した男とその連中であって、この女性が責任を感じたり謝ったりする必要なんてこれっぽっちもない。
「お姉ちゃん」
「……あっ。えっと、どうしたの?」
私に話しかけてくれる人をゼストしか知らなかった私は、少し反応に遅れた。
「あのお兄ちゃん、大丈夫?」
あのお兄ちゃん……ゼストか。この子まで彼を気にしていたのか。
私はこの子と目線を合わせるようにその場にしゃがみ、にっこりと笑ってみせた。
「大丈夫だよ。あのお兄ちゃんは強いから」
ぽんぽん、と軽くその子の頭を撫でる。
そう。ゼストは大丈夫。だってゼストは強いもの。あんな輩に負けるような奴じゃない。きっと私が一番よく知っている。
「あのお兄ちゃんが元気になったら、お姉ちゃん教えてくれる? 僕、あのお兄ちゃんにもお礼言いたいんだ」
「うん、もちろんだよ。お兄ちゃんもきっと喜ぶよ」
健気で素直でとても可愛い子だ。そんな子をあんな怖い目に遭わせてしまった。このことが何かのトラウマにならなければいいんだけど。
「じゃあ、約束だよ!」
無邪気な笑顔を浮かべ、小指を差し出す少年。もしかするとそれは、私が心配するまでもないことなのかもしれない。そういう場面に直面しても、自分の力で乗り越えていきそうな気がする。
「うん、約束」
私はその小さな小指に自分のそれを絡めるのだった。