ゼストの言うこと聞いておいてよかった。木陰でほっと胸をなでおろすのは言うまでもなく私ルナである。
ゼストは今、子供を誘拐した例の男とその仲間たちと乱闘の真っ只中である。私が行ってたら完全に殺られている。
ゼスト一人に対して30~40人。しかもだいたいは凶器を持ち合わせている。なんて汚い奴らなんだ。あいつは武器なんて持ってないんだぞ。喧嘩するならもっと平等にしろよバカ。
自分の存在に気づかれていないのをいいことにブツブツと小言を連発する私。
でも、あいつはあいつで相手から武器を奪って自分のものにしている。さすがにてこずっているようだけれど、まだ少し余裕があるようにも見える。
――あ。私、今なら男の子を連れ出せる。
ゼストがこの喧嘩を終える頃にはきっとボロボロで疲れているに違いない。じっとしてろとは言われたけれども、とにかく音を出さなければバレないはずだ。
大丈夫。今なら行ける……!
私はそこから走り出した。
バリーンッ! カァアンッ!
もともとバイクが置かれてあっただろう家の裏には、幸い誰もいなかった。
喧嘩の真っ最中という状況だけあって、いろいろな音が混ざり合っている。さっきまでのゼストを見ていると扉は簡単には開かない。それなら窓を割って入っていくしかない。これだけ激しい音が響いているのだから、窓が割れた音もきっと紛れてくれる。
近くにあった大きめのコンクリートブロックを投げる。割れているガラスをパズルのように組み合わせてガムテープで留めただけの窓だ。案の定、簡単に粉々になり、窓枠だけになった。これなら私が入るには余裕だ。私はそこから内部に入り、男の子を探し始めた。
家の中はドアや収納空間が無駄に多かった。しかもまあご丁寧にその全てにカモフラージュ的な感じで、いかにも閉じ込めていますというような細工がなされている。
私が声を出してしまってはすぐに見つかってしまう。……仕方ない。一つずつ確認していくしかないようだ。
ここも違う。ここも。ここもまた違う。
一体どこに男の子を閉じ込めているのやら。あの男にとってはそんなにもこの男の子が大事なのだろうか。いや、あの男の未練は別れた女性か。……それなら静かに見守ってあげればいいものを。
ほとんどのドアや収納空間を探して、最後の場所。
細工をどかしてドアを開けると、男の子が丸く座っていた。こちらを見る目には涙が溜まっている。
彼の震える身体をそっと包み込んで
「僕、もう大丈夫だよ」
耳元で囁いてあげた。とにかく安心してほしかったのだ。
「ありがとうお姉ちゃん!」嬉しさのあまり、少年は大きな声を出した。
まずい……!



