『家』を出て約30分。


外を歩き回る、という説明しか聞いていなかった(正しくは聞かされていなかった)私。テキトーすぎると思っていたんだけれど、実際そうだった。


え、何。ホントに散歩? 散歩くらい一人で行けよ。こっちは今にもぶっ壊れそうなんですけど!


なーんて、言葉には決して出さないけれども心の中では言いたい放題である。


でもゼストはさっきから周囲をキョロキョロしている。私が考えているような普通の散歩なら前を向いて歩けばいい。彼は誰かの目線でも気にしているのだろうか。


あああああ話したくない! というかまともに話せない! でも気になり始めるとずっと気になっちゃう自分が腹立たしい!


「……あの」


声ちっちゃいけど言っちゃった! 声かけちゃった! 私って勇気あるー!


ところが返ってくるのは、んー? という生返事。こんなにも頑張って自分から話しかけているというのに何だそれ。……いや、その程度でめげないぞ私は。


明らかに私の質問なんて聞き流しているような返事なのだが、それでもなぜか心臓の鼓動が速くなる自分がわからない。


「……さっきから何を気にしてるんですか」とにかく頑張れ自分、と言い聞かせながらもう一度声を出す。あまりの気まずさに敬語口調になってしまう。


いや、とこれまた短い返事。私のこの勇気ある行動をこんなふうにあしらうなんて……。


………………。


ていうか何をがっかりしてんのよ私は。そんなのいつものことじゃん。そう。いつものことなんだ。


いつもの――。


「ガキ捜し」


「え?」


それがいつから私にとって“いつものこと”でなくなったのか。そんなことを考えているとゼストがこの散歩(コレ、仕事って呼んでいいの?)の目的というか詳細を言い始めた。


「昨日依頼があってな。ガキんちょが誘拐されたらしい」


「ゆ……誘拐!?」


誰が誘拐したのかなんて知らないけど、明らかに事件だよそれ! 事件の匂いしかしないもの! そんなの探偵なんかよりも警察の方が確実に動いてくれるって! 依頼人さん来る場所間違ってるよ!


「誘拐してったのは元交際相手だとよ」


聞けば、依頼人である女性は他の男性と結婚して子供にも恵まれいて、でも元交際相手はそれからも独身で彼女のことを諦めきれなかったというのだ。そして昨日、突然家に押しかけてきて子供を連れ去ってしまったらしい。こいつを返してほしければ離婚しろ、と。


バカな男だなぁ。


「……未練があってストーカーになりました的なケースですか」


私がそう言えば、ご名答、という言葉とともに頭に何かが乗せられる。


私の頭をすっぽりと覆ってしまうように置かれた“それ”は、そのまま優しく髪を少し乱した。


「なっ……!」