私は今、さっきの流れでゼストの部屋に来ている(連れて来られたというのが本来は適切かと思われます)。
「は……話とは、何でございましょーか……」
ここにいるだけでもおかしくなってしまいそうなのに、こうして頑張って話を切り出す私はかなりの勇者だと思う。連れて来られたはいいものの(いや全然よくないけど)、ゼストがなかなか口を開かないのだ。この部屋に入ってだいたい10分は既に経過しているのだけれど、話があると言うくらいなら早く終わらせていただきたい。
「明日からの仕事の話だ」
やっと喋ってくれたどうもありがとう。
「わかりましたじゃあ私は部屋に――」
「最後まで聞け」
……作戦失敗。まあこんな方法でうまくいくなんて思ってなかったけど。
「仕事復帰っつー感じではあるがお前は病み上がりだからな」
「病気なんて患ってませんけどね」
「病み期に入ってたのはどこのどいつだアホ。勝手に仕事俺に押し付けてんじゃねーや」
「あの仕事を私が任されるように仕向けたのはあんただけどね!」
あと病み期とかいう言い方やめろ! 病んでないから。悩んでただけだから。先頭に『な』があるのとないのとではニュアンスも全然違うからね。
「つーわけで、だ」
私の主張を綺麗にスルー。都合の悪いことは耳に入ってこないというこの上なく最低な耳を持ったそいつは、淡々と話を続けていく。
「明日からのお前の仕事、俺も同伴ってことになったから」
……え。は? え? 今、何て言った? 同伴? え?
「ええええええええええええええ!!?」
「うるせー」
嘘だありえない! ていうかこれはありえちゃいけない! ここにいる今でもどうかなってしまいそうなのに明日から常に一緒に行動しろと? 私を殺す気か!
「ダメダメダメダメダメダメダメダメ!」
「何回連呼してんだ」
この際こいつの冷静なツッコミはどうでもいい。とにかく! 私は嫌だ。私が死ぬ。心臓バックバックしすぎて私が死んでしまう!
「ダメっつったって仕方ねーだろ。もう決まったことだ。我慢しろ」
私には我慢するだけの余裕もありません!
「無理! 絶対無理! そういうわけだから私は部屋に帰る!」
それだけ言い放って彼の部屋を出る。とりあえず嫌だという意思は伝えた。
……どくん、どくん。
ああああああ……! もう何でこうなるかなー。絶対に誰かが仕組んでるよね。明日からどうすればいいんだろう。最悪な状態を考えると私マジで死んじゃうよ。精神的疲労で死んじゃうよマジで。
ゼストとはまだ少しだけ距離を置いていたかったのに……。キロさんにも話したように、一緒にいるということにはまだ抵抗があった。
ほんの一ヶ月ほど前までは何にもなかったのに。