キロさんの部屋を出て、パタン、という音とともに扉を閉める。キロさんに聞いても収穫無しか……。
「あれ、ルナ。こんなところで何やってんだ」
「っ!!」
この『家』にいて私が相手から声をかけられるということは珍しくない。でもそれはここに住むたった一人の人間によるものであり、その人を除けば私は常に自分からということになる。
もう言わなくてもわかるよね。
ゼストだ。
そいつだけは必ず私に声をかける。このときだけ、私は“話しかけられる”という受け身状態になるのだ。
……とくん、とくん。
彼の顔をまともに見られないのはどうしてなのだろう。肩に力が入ってしまうのはどうしてなのだろう。
自分ではとても制御できないこの感覚。
私が相談しに行った人たちは何かしらの答えを持っていた。この感覚の正体がわかっているような言い方だった。でもそれを私に教えてくれる人はいなかった。……ずるい。
「何でもない……」
自分ってこんなんだったっけ、と今までの自分までも見失ってしまいそうだ。この胸の苦しみの正体や原因がわかってしまえば楽になれるかもしれない。だけど、私にとっては余計に苦しくなりそうな気がしていた。
ゼストと目を合わせることなく、私は足早に自分の部屋に戻……
「待てルナ」……れなかった。
その理由はいたって単純で、ゼストが私の腕をしっかりと掴んだから。まあ昨日と似たような状況というわけでございます。……なんてこった。
昨日みたいに洗いざらい吐かされそう。そんでもってこいつはまた愉快そうにその様子を愉しむんだろうなぁ……。
目と目が合う。昨日の彼と重ねてしまう自分をぶん殴りたい。
「話がある。ちょっと来い」
言うだけ言って、彼は私の腕を掴む手を放すことなくそのまま歩き始めた。
来いっていうかコレ……連行されてるよね。もう強制的だよね。話があるから来てもらうぞ的な言葉にするべきだよね。そう思うのは私だけかな?
目線を少し上げると前には二つ年上の幼馴染の大きな背中があって、知らないうちにそれはなんだかたくましくなっている。
『あの日』見たそれは、まだ小さくて私と同じくらいだったはずなのに。
……とくん、とくん、とくん。
ていうか何考えてんの私。この音も、何勝手にボリューム上げちゃってんの。
……やれやれ。この音の原因を突き止める日、もしくはこの音が止まる日は一体いつ訪れるのやら。それはまだ、今の私には知る由もない。



