誰にも見えないその影を




【side ゼスト】


案の定、そいつは自室にいた。部屋の隅っこで、いわゆる体操座りをして小さくなっていた。


「おいルナ」


そいつの名前を呼ぶけれども、無視をしているのか考え事で頭がいっぱいなのか無反応である。前髪の隙間から僅かに覗く彼女の瞳は、とても潤んでいるように見える。そしてそれは、とてつもなく暗い。


一言で言えば……らしくない。


ほんと、何を考えているのやら。


「3時から会議っつったろ。遅れるぞ」


「……行かない」


「あの調査は主にお前の担当だろ。お前がいなきゃ始まんねーんだけど」


そう。写真を撮りまくったのは確かに俺だ。だけどもとはと言えばルナの任務。俺が一人で全部を説明してしまっては意味がない。俺は手伝ったという立場でいなければならない。これから始まる会議には、ルナがいてくれないと困るのだ。


「……知らない」


勝手に他人事にしてんじゃねえ。お前のために俺がどれだけ動いてやったと思ってんだバカヤロー。まあお前から頼まれたわけではないが。


「じゃ、お前の手柄全部もらうけどそれでもいいのか」


俺がよくやる手段だ。こういう感じに言っておけば彼女はたいてい「全然よくないですね!」と声を張り上げる。こういういつものような流れで俺はルナを会議室に導こうとした。


しかし。


「……勝手にすれば」


何だそれ。何だその反応。いつもとは真逆の言葉に俺は戸惑う。


「お前、何かあっただろ」


「……何もない」


嘘だ。本当に何もないのなら、お前はそんな顔なんて絶対にしない。


俺はルナのもとへ歩み寄る。それでもルナはその場を動かず、そのまま腕の中に顔をうつ伏せて隠した。


まるで自分の感情さえも隠すように――。


「アホ。そんなんで隠し通せるとでも思ってんのか」


彼女の前に座り、腕の中に隠された彼女の頬を両手で包み、俺はそう言った。


「何年一緒にいると思ってんだ」


彼女と眼が合う。太陽の光のせいなのか、それとも彼女の瞳にたまるそれのせいなのか、彼女の眼は儚く輝いていた。


「幼馴染なめんな」


その言葉の直後、ルナの中の何かが溢れ出した。