男の浮気相手の家を離れて約30分歩いたところにコンビニがあった。
12時。ちょうどお昼時だ。私たちは、そこに寄って何かご飯を買って帰ろうという話でまとまっていた。
「お前行ってこい。俺はここで待ってるから」
買ってくるものは何でもいいらしい。まあそれは私も同じだけど。
ゼストは行かないの、と聞けば、お前が俺のところに戻ってくるのが一番楽だろ、とのこと。私はペットじゃないんだぞバカ。
でも、彼が言うことも理解できる。私の影の薄さから考えれば、ゼストが私を探すよりも私がゼストのところに行った方が確実だ。
わかったよ、と返事をして、私はコンビニに入……
「痛っ!」……れなかった。
あれ? コンビニって自動ドアじゃなかったっけ? 私の記憶や常識が間違ってる?
「何やってんだお前」
ガラスに勢いよくぶつかった音に驚いたのか、ゼストが寄ってきた。するとその瞬間、ウィーンと音を立てながら自動ドアが開く。何コレ。コンビニまで私をいじめたいの?
「いや……自動ドアが開かなかったんだけど」鼻をさすりながら答える私。
「お前、ここまでくるともはや幽霊だな」
「自動ドアは幽霊にだって反応するよ。怖い映像集で見たことあるし」
「じゃお前UMAか」
「どこからどう見ても人間ですけど!?」
ゼストが来てくれたおかげでめでたく私はコンビニに入ることに成功したのだけれど……どうして開かなかったのだろう。
とりあえずおにぎりを一人二つずつ、計四つを手に取って、私はレジに向かう。
レジは二つあるのだが、どちらのレジも店員さんは不在で、商品を並べたり整理したりしていた。
「すいませーん」
呼びかけるけれども、返事がないただの屍のようだ。……じゃなくて。
「すいません、レジ――」
「あのーすいません。レジ、お願いできますか」
私が再び声をかけようとしたとき、隣でゼストが声を出した。
その声に反応し、大変お待たせいたしました、と店員さんは慌ててレジに入る。そして何事もなかったかのようにお会計はどんどん進んでいく。
「ありがとうございましたー」
店員さんのその言葉を受けながらコンビニを出るまで、それはまああっという間だった。
「…………………………」
なんか、私って、本当に誰にも見てもらえないんだなぁ。
今までは相手がゼストだったりソウヤさんだったりと、昔から一緒にいるメンバーだったから自分でもあまり気にしていなかったけど。
私の姿は、みんなには見えないんだ――。
「……帰るぞ」
それでも、こうやってゼストはよく私に言葉を投げかけてくれている。どんな状況であれ、それはいつも変わらない。
――……とくん。
それは聞き慣れない音だった。でも、昨日くらいから頻繁に耳にする音でもあった。私だけにしか聞こえない、私にも正体のわからない音。
手を貸してくれたゼストはそれ以上何も言わなかった。
『家』に帰る頃には、午後1時を過ぎていた。



