出発してから約1時間30分。現在の時間、午前11時30分。


私たちは例の男の浮気相手の家の近くにある木に身を潜めていた。あの家は今日もカーテン全開。リビングが丸見えである。


「そういえばお前、今日は調査にノリノリなんだな」


小さめの声でゼストが言った。


「眼科行けバカ」私も同じく小さめの声で返す。


どこからどう見ればそんなふうに見えるというのだろう。頭だけじゃなく目までとうとうおかしくなったか。


「いいのかお前。今俺がいなくなればお前、あの昼ドラみたいな光景見る羽目になるけどそれでもいいのか」
「全くよくないですね!」


なんか昨日も似たようなやりとりをした気がする。結局こんな感じで私はいつもゼストに頼ってるんだなー。そのことについてゼストがどう思っているかなんて私にはわからないけれど、あんな感じで言っているときの彼は至極愉快そうだ。


「……ルナ、お前あっち向いてろ」


さっきまであんなにも愉しそうだった彼の顔が突然真剣になるもんだから、私はその変わりようにいささかびっくりして、素直にその家とは違う方向を向いた。


――じゃあお前、明日からあっち向いてろ。


さっきの彼の様子が昨日のそれと重なってしまうのはどうしてかな。


隣でパシャパシャと音が聞こえる。どんな様子かなんてわからないし、ていうかわかりたくもないのだけれど、そういう光景をゼストが写真に収めている。よく見ていられるなぁ。


しばらくするとその音は消えた。それと同時に、


「よし。昨日のも合わせてこんぐらいあれば証明できるだろ」


満足気に言うゼストの声が聞こえた。


「……もういいの?」


そう尋ねながらゼストの方を向くと、そこに彼はいなかった。というか数メートル先に彼はいた。


つまりはこういうことだ。


証拠集めに満足したあいつは、私と一緒に来たことを忘れて私を置いて帰ろうとしていたのだ。


怒鳴ってやりたかったが、証拠が集まったのは彼がいてくれたからであって、私だけではああいう光景に耐えられなかっただろう。仕方なく私は黙って彼を追いかけた。


なんていうか、ここまでくるともう自分の影の薄さを恨むしかないよね。