【side ゼスト】


今から2時間前。少し前にここに帰ってきたばかりの俺と幼馴染のルナだったが、俺はとりあえず証拠写真だけでも収めておきたかった。


さっきはルナが気持ち悪いとか放棄したいとか言い出すもんだから一緒に帰ってきてやったのだが、なんとなく俺は満足していなかった。


もともと調査自体はルナの仕事だ。だってそうなるよう仕向けたのは俺だから。


俺は協力してやるつもりなんてこれっぽっちもなかった。だってそうなるよう仕向けたのは俺だから。


でも、自分でも理由はわからない。


影が薄くてただでさえ見つけるのが大変なうえに、変な場所で勝手に迷子になるあいつを見つけてしまった俺。まあ大声を出していたからっていうこともあっただろう。


出発する前にルナの部屋を覘くと、そいつは呑気に読書をしていた。俺には本の世界に没頭していたように見え、声をかけるのは気が引けた。


それに、あんな現場は見たくないと言っていたばかりだ。そんな彼女を無理矢理引っ張り出すわけにもいかない。俺は仕方なく、一人で再び出かけることにした。


この浮気調査をルナに任せようと言ったのは紛れもなく俺だ。だからそんな俺があいつの代わりに動いているなんてことを他の誰かが知れば、面倒なことになるのは言うまでもない。


特にソウヤさん。あの人は仕事に対してかなり真面目だし堅物だから、何を言い訳にしたとしても聞いてくれそうにない。俺は部屋にいるふりをして、ソウヤさんの目を盗んで外に出たのだ。


問題は今だ。


帰ってきてまたルナの部屋を見ると、そいつは机に向かっていた。うとうとしていることが後ろから見てもわかるくらい、頭をカクンカクンさせていた。そこでその背中を蹴ってやった。


「ごふっ!!」なんて、女の子とは程遠い反応をするルナ。


「あ、わりい。お前がそこにいたの全然気づかなかった」


それからいつものようなやりとりをしばらく続けていた――つもりだった。


「私がここにいたことに本当は気づいてたの?」


そいつは、突然そんなことを言ってきた。


「……なんで」反応が一瞬遅れたのは、彼女のその言葉があまりにも想定外すぎたから。


「あんたさっき、私がずっとここで読書してたって言ったじゃん」


いつもと何ら変わらない表情でそう言う彼女。


そう言われた瞬間に「えっ」と声を出してしまったのは不覚だった。とにかくここを離れたかった。それから少ししつこく尋ねてきたルナだったが、


「……そりゃお前の気のせいだろ。自惚れてんじゃねーや」


俺はそう言うことしかできなくて、そのままその部屋を後にした。


もちろんそれは、ルナの気のせいなんかじゃないし、彼女が自惚れているわけでもない。俺がずっと“見えないふり”をしていたということが招いただけだ。


はっきり言っておこう。俺にはあいつが見えている。幼い頃からずっとだ。だから昔からあいつが迷子になったときは必ず俺が探して連れて帰った。


かくれんぼで隠れていれば、あいつは誰にも見つからなかった。見つけてもらえないままかくれんぼは終わっており、あいつの友達はルナの存在を忘れてみんな家に帰っていった。


そんなあいつを見つけるのはいつだって俺だった。


『あの日』もだ。





せっかく今までバレないように振る舞ってきたつもりだったのに。


……あいつは変なときに鋭くて困る。