椅子に座り、机の上にある大量の書類とにらめっこを繰り広げる私。
書類整理を始めて1時間。現在午後4時。ソウヤさんはまだ帰ってこない。
手つかずの書類は机の左側、目を通した書類はカテゴリーごとに分類しながら机の右側へと移動させていくのだけれど、左の山の高さは一向に低くならない。ソウヤさんは部屋から出てこないことが頻繁にあるけれど、こういう作業を延々と繰り返していたのか……。
気が遠くなる。
あー……なんだか視界がぼやけてきた。瞼が重い。ふわふわした世界が見える。気を抜けばこのまま眠りに落ちてしまいそうだ。
「ごふっ!!」
背中に走った、突然の衝撃。痛いっていう感覚しかなかったね。激痛。後ろの正面だ~あれ、なんていう具合に振り向けばそこにはゼストが立っていて、私を見下ろしている。いやこれは100%見下している!
「……何すんの」
おかげで目が覚めましたどうもありがとうなんて言っている場合ではない。私は熱心に仕事をしていたというのに……理由もなく攻撃とは卑怯だ!
「あ、わりい。お前がそこにいたの全然気づかなかった」
腹立つ! やっぱこいつめっちゃ腹立つ! ていうかここ、私の部屋なんだけど。何勝手に入ってくれちゃってんの。
「……何それ」ゼストの持っている束に気がついた。サイズ自体は小さめだけど、枚数はとても多いように見えた。
「あの男の写真」答えるゼスト。「ソウヤさんには見つからねえようにカモフラージュしてこっそり2時間くらい調べてたんだが、ありゃ黒に確定だな」
「え。あんた一人で行ったの?」
「影の薄いどこぞの小娘が読書に熱心だったんでな。てなわけで、約束通り9割よこせよ」
「あんたが勝手に言い出しただけで、私はそんな約束してないから。ていうかさりげなく1割増やさないで」
……ん?
今こいつ、私がここにいたことに気づかなかったって言ったよね。でもその後に――。
「私がここにいたことに本当は気づいてたの?」
「……なんで」
だって……。
「あんたさっき、私がずっとここで読書してたって言ったじゃん」
「えっ」
そうだ。今ゼストは、確かに言った。影の薄いどこぞの小娘が読書に熱心だった、と。そう問い詰めていくにつれて、なぜかぎょっとしたり口数が減ったりしていく彼。
結局ゼストは、
「……そりゃお前の気のせいだろ。自惚れてんじゃねーや」
そう言って、足早に隣にある自分の部屋へ戻っていった。
こいつは何がしたいんだ?