誰にも見えないその影を




午後は暇だった。とにかく暇だった。


午後3時。


「ルナ」


自室でのんびり読書でもしていると、私の名前を呼ぶ誰かの声が聞こえた。これはゼストではない。一瞬でわかった。……って、私は何を考えてんだか。


部屋の扉は全開にしているから部屋の前を通れば誰だって気づくだろう。


「部屋にもいないのか……」


でもその声の主――正体はソウヤさんだったのだけれど――は、この部屋をちらりと見たにも関わらず何も見なかったような様子で通り過ぎていった。


「ソウヤさん!!」彼の背中に私は叫ぶ。部屋、完全に見てましたよね! 目、ぴったり合ってましたよね!


「あれ。お前どこにいたんだ」
「ずっと部屋にいました! 素通りしたのはソウヤさんです!」


そんなに私をいじめて楽しいか。泣くぞ。


「……で、私に何かご用ですか」ゴホン、と咳払いをしてソウヤさんに尋ねる。


私がご立腹であることを察知したのか、ソウヤさんは少し控えめに答え始めた。


「いや……書類の整理を頼もうと思ったんだが。他の奴らは今仕事で出かけてるから」


話によれば、アスタさんもあの依頼人の夫に関する聞き込みに行ったり、依頼人と対面して話を聞いたりっしているらしい。他のみんなも手分けしていろいろと情報収集をしているらしい。


「ソウヤさんは今から何かあるんですか」


ソウヤさん自身がすればいいなんてことは考えていないが、私に頼むくらいだ、おそらく彼にも何かしなければならない仕事があるのだろう。


「俺は情報屋んとこに行かなきゃなんねえ」


情報屋。


彼らのことは、私たちもよく知っている。彼らにはいろいろとよく手伝ってもらっているのだ。今回の件でも、アスタさんが情報屋の三人に協力をお願いしていた。


情報屋は三人組で、リーダーはシドという男性。年齢は21歳。ソウヤさんと同い年だ。20歳を越えると大人という自覚が生まれるのかどうかは定かではないが、シドさんもソウヤさん同様かなりしっかりしている(たまにボケたり天然になったりするときもあるが)。情報の処理能力はずば抜けている。


情報屋の経理を担当しているのが、シュンタという少年。シフォンくんと同じ17歳。彼は左目周辺を大きな眼帯で隠しているのだけれど、シドさん曰く火傷の傷が酷いらしい。お金の管理をしているだけあって責任感も強く、判断力もある。ちょっと引っ込み思案な性格でもある。


情報収集担当は、なんと私と同い年のハツネちゃんという16歳の少女。都会だろうが田舎だろうが土地のことに関しては熟知していて、普段の行動から人間関係を割り出すこともできる。警察でさえ見つけられなかった裏組織のアジトを摘発したこともあるらしい。


こんな感じで、情報屋のみんなはかなり頼れる存在だ。リーダーのシドさんは、ソウヤさんとあまり仲は良くないようだけど。


でも、二人のことだ。シドさんが入手した有力な情報をソウヤさんが持って帰ってくるに違いない。


「わかりました」私は頷いた。


「書類のことは私に任せてください」


ぶっちゃけ暇を持て余してたのだ。思った以上にかなりの書類が束になっていたけれど、やることがないまま時間を過ごすよりはずっといい。


いってらっしゃい、とソウヤさんを送り出し、私は任された書類に目を通していくのだった。