「じゃあお前、明日からあっち向いてろ」
「……え?」
それは、意外すぎる言葉だった。ゼストのことだから「ダメだ」とか「アホか」とか、そういうことを言ってくるだろうと思っていたのに。
「え、じゃねーよ」彼の表情はいつもと変わらない。
「お前、見たくねえんだろ。だったらあっち向いてろっつってんだよ。証拠写真とかは俺が撮っといてやるから」
あれ。こいつ、こんなにも優しかったっけ。
……いやいや騙されるな私! そもそもこんなことになったのはこいつのせいだから! なんか株上げようとしてるっぽいけど私は騙されないからねバカヤロー。
まあでも、見たくないというのは揺るぎようのない事実であるわけで。そんでもって、ゼストが代わりに引き受けてくれることにありがたさを感じていることも揺るぎようのない事実だ。
「ていうか私、結局はここまでは来なきゃなんないのね」とはいえそこは変わらないらしい。
「当たり前だ。お前の任務だぞ」
押し付けてきたのはあんただけどね!
「成功したら手柄は8割よこせよ」
「私の任務なのに!?」
「証拠を収めるのは俺だからな」
どや、とこちらに笑みを見せるゼスト。ドヤ顔してんじゃないわよ腹立つ。ていうか8割って明らかに多すぎでしょ。せめて6割くらいで勘弁していただきたいものだ。ゼストの性格から考えてそれはおそらく不可能なお願いなんだろうけれど。
「お前がいればたぶん俺もバレない」
「どうして」
「お前の影の薄さがうつる」
「人をウイルスみたいに言わないでくれる!?」
一体どこまで私を痛めつければ気が済むんだこいつは……。普段はこんな感じで私のことなんてどうでもいいくせに、優しくなるときもある。何を企んでいるのかなんて読み取れないし。知っちゃうとそれはそれで怖いけどね。
『家』に帰るころには既に正午を回っていた。
この日の私のお仕事は終了です。



