翌日。午前9時45分。
「行ってきまーす」
昨日は見失ってしまった依頼人の夫を、今日こそは最後まで行動を記録しなきゃ。そんな思いというか決意を胸に、私は家を出発した。
「……行ってきます」
……え?
「あんたも行くの?」
一つ目の行ってきますは言うまでもなく私。もう一つの行ってきますは、どうしてか知らないけれどもゼストだった。私の聞き間違いであってほしかったのだけれど、残念ながら私の聞いた声はゼストのもので正しかった模様。
「仕方ねーだろ。お前、昨日迷子になってたんだから。俺がいてやんねえとお前、あの都会の街で誰にも見つからずに誰にも声をかけてもらえねーまま死んでいくことになるけどそれでもいいのか」
「全然よくありませんね!」
即答する私。当然だ。こんな影の薄さに加えて迷子になんてなりたくない。しかもそのうえ、あんな息苦しい街中で人知れず死んでいくなんて考えられない! かなりオーバーに言ってるのはわかってるけれども、それでもやっぱりそういうのは嫌だ。
そうなってしまうくらいなら、やはりゼストがいてくれる方がまだ安心だ。
「じゃあうだうだ文句言うな」
私に対する態度はこの上なく冷たいけれど。
でも。
昨日みたいに不安になっているときには必ず来てくれるんだってことを私は知っているから、そんなことは気にしない。
まあこいつは是が非でも認めたくないようだけどね。
そうだとしても、私は知ってるからそれでいい。
かくれんぼをしていた『あの日』だってそうだった。
嫌な思い出だけどいつまで経っても忘れられないのは、きっとこのヒーローになり切れない幼馴染のせいだ。
「はーい」
ちょっとだけニッと微笑んで、私は彼についていくのだった。
「……お前何ニヤニヤしてんだ気持ち悪い」
ニヤニヤじゃなくてニコニコね。ニュアンス全然違うから。ここ重要ポイント。



