「――ていうか奥さんからの情報、いくらなんでもアバウトすぎでしょ」
依頼人である奥さんから情報を受け取ったアスタさんによると、どうも彼女の夫は街中の大通りに面した超高層ビルのどこかで働いているらしい。
私が今いるところがその大通りなのだけれど……。
超高層ビルがありすぎてどのビルなのか全く見当つきません!
せめてビルの場所とか名前とか、そういうことくらいは把握しておいてほしいものだ。探す方の身にもなっていただきたい。
……あれ。そういえばこの台詞、どこぞのバカも言ってたな。しかも私に向かって。
いやでも私の場合は私自身がそういう性質なのだから仕方ないよね。
なーんて呑気なことを考えながら依頼人の夫がいそうなビルを探していると……。
――あ……あの人っぽい。
なんということでしょう! 私の手元にある写真とクリソツの男がちょうどすぐ斜め前に佇むビルから出てきたではありませんか!
さすが私。なんてグッドタイミング。やっぱ普段の行いが素晴らしいんだなー私。
まあそれはいいとして。
実際に浮気しているところを見たことはないと奥さんは言っていた。依頼なら確信を持った状態でしてくれとも思っていた私。しかしラッキーなことにその夫を発見できた今となってはそんなことはどうでもいい。とりあえず追跡だ。
でも、こんなにもよく晴れた時間に白昼堂々浮気をする方が難しいだろう。
……たぶん、日が暮れるまで待たなければならない。
どこでどうやって時間潰そうか。
「あれ、ルナじゃねーか」
「っ!!」
私の名前を呼ぶ背後からの声に思わず肩をびくりとさせてしまった。
振り向けばそこにはゼストがいた。
「何やってんだこんなところで」
「依頼人の夫を見つけたから追跡しようと思ってたところだけど。ていうかあんた、いきなり声かけないでくれる?」
気配すら全く感じなかった。ただ消すのが上手いだけなのか私にはわからない。でもどちらにせよ、そんな奴に「お前は影が薄い」なんて言われたくはない。
――あれ。そういえば……。
「……あんた、こんな大通りでよく私のこと見つけられたね」
他のみんななら絶対に素通りしてたよ、と私が続けると、
「…………別に。ただの偶然だ。見つけたくて見つけたわけじゃねぇよ」
言われなくてもそんなことくらい知ってるわ。しかも言われたらそれはそれでなんかむかつく。
「…つーかお前」ゼストが何かを思い出したように言う。
「あの男、追わなくていいのか。どっか行っちまったけど」
「え!!?」
い……いつの間に!
「どこ行ったの!?」聞けばそいつは、
「知らね」の一言で終了。嘘でしょ!?
こんな街中で見失ってしまっては、再び発見するのにはかなりの時間がかかる。
あーもう……! ゼストが声なんてかけるから。
「邪魔した罰! ゼスト、あんたも探すのに協力してもらうから」
は? という表情を即座に見せてきたゼストだけど、そんなもの私は知らない! ゼストが私に話しかけなければ私の任務はおそらく順調に遂行されていた。
ここで一つ、はっきりと断言できることがある。
やっぱりゼストは私のことなんて何も考えてない!
ちょっとでも嬉しくなってしまったさっきの自分がバカだった。
「あんたはあっち! 途中で帰るようなことがあったら許さないんだからね」
「へーへー。めんどくせえなぁ」
やれやれ、事態をめんどくさくした人間が何を言っているのやら。
ゼストに構っていてはきりがない。私はとにかくあの男の捜索に集中するのだった。