誰にも見えないその影を




彼のおかげで私の朝は最悪な始まり方をする。


踏まれて終わりではないのだ。


不幸なことに、『最悪』は踏まれるだけでは終わらないのである。


――ここには布団しかないからいけないんだ。いつか私はベッドを買う! そうすればゼストにだってきっと踏まれない。ざまあみろゼスト。


結局謝りもせず部屋を出て行くゼストの背中をキッと睨み、そんなことを心の中で呟きながら私は布団をたたむ。


そもそもこの部屋は私専用として設けられている。


確かにドアを開ければ他の部屋に通じる通り道にもなるのだが、だからといって勝手に部屋を通らないでほしいというのが私の願望である。


この『家』に暮らす他の人にもそう言ってある。


なにせここで暮らしている人間の中で、私は唯一の女の子だからだ。