誰にも見えないその影を




わけがわからないとでも言いたげな表情を浮かべるゼスト。


しかし、そんなものは私には通用しない。


私にはわかる。


彼のこの顔は、私の腕を踏んだのはわざとだということを表しているのだと。


「とぼけんなバカゼスト! 毎朝私を踏んづけといて何なのそれ! ホントありえないんだけど」


毎朝ゼストに踏まれては彼に必死に噛みつく私。


いつか謝らせてやろう。


その意味も込めての抵抗なのだが、生憎それは犯人ゼストにとっては全くの無意味なものであるようで、彼はけろりとした顔で開き直る。


「はぁ? 知るかそんなの。こんなところで寝てるお前が悪い」


「いや気づかない方が悪い!」


こんなやりとりも、もう何年してきただろうか。