誰にも見えないその影を




帰るぞ、とその後彼はそう言ったけれど、私は真っ暗な世界に腰を抜かして立てないでいた。


すると彼の右手が私の左手をしっかりと掴んで、そのまま彼は、何も言わずに私を無理矢理引っ張っていった。


私たちが『家』に帰る頃には、心なしか私よりも彼の方が濡れていたように感じた。


「私よりびしょびしょじゃん。風邪引くよ」


「うるせえ。誰のせいだと思ってんだバカ」


「急にいなくなった友達のせい」


「いや全部お前のせいだろーが。てか、見つけてやったんだからちょっとくらい感謝しやがれ」


「……見つけてくれなんて誰も頼んでないし」


「怖くて泣いてた奴が何言ってんだ」


「泣いてないし。あれ雨だし」


「…………」


「…………信じてないでしょ。ほんとだもん」


「……………………」


「……………………」


「……ま、そういうことにしといてやるよ」