「…………ルナお前、今日は一段と変な奴になってんぞ」
「いいよ、今日くらい別に」
今日くらい、素直でいさせてよ。熱のせいってことにしといてさ、少しでいいから素直でいさせて。私はそれくらい変な奴だからさ。
「魂胆が見えねえな」
当たり前だ。そんなもんあるわけないんだから。ただ伝えたい言葉があるだけ。ずっと閉じ込めていた言葉を伝えたいだけ。言えるって感じたこの瞬間を逃したくないだけ。
「なに。あんたの好きな女の子が珍しく素直でいようってのにどこかお気に召さない点でもあるっていうの?」
「誰もそんなこと言ってねーだろ」なんだ、熱のせいか、熱のせいなのか、としつこく言うそいつ。熱のせいです。
「じゃあ何なの。魂胆がどうとか、結局何が言いたいの」
「好きな奴から“ありがとう”なんて言われて嬉しくなって悪いか」
「なっ…………」
なんだかよくわからないけど身体が無意識的に飛び起きる。
なに。何なのほんと。そんなこと、今まで一度も言ったことなかったくせに。それともアレですか、あんたも今日は素直Dayってわけですか。
ていうかその顔やめろってば。私の顔見て愉しそうに黒い笑み浮かべんな。わかってるから、頬に熱が帯びてることくらい。この熱は風邪に伴うものではないってことくらい。
――ゼストが好きだっていう気持ちからくる熱さだってことくらい、ちゃんとわかってるから。
「つーわけで病人はおとなしく寝てろ」
肩を押され、再び横になる。両肩はゼストの手に触れていて、目と鼻の先に彼の顔がある。
気がつけば私たちの距離はゼロになっていて、唇に彼の“それ”が重なっている。儚い時間と感覚はあっという間に消えていき、そしてまた声だけが静かに行き来する。
「……風邪、うつったらどうすんの」
「そんときゃお前に看病してもらう」
「看病なんてゼストみたいに上手にできないよ」
「問題ねえよ。お前が看病してくれることに意味があるんだからな」
「……どこで覚えたの、そんな殺し文句」
「知らね」
好きなんだからどこで覚えてこようがどうでもいいだろ、とフッと笑いながらそいつは言った。そういうことをさらりと言うから余計に反発したくなるんだよ。でも今日はそんな気なんて微塵もない。
ねえゼスト、と再び彼の名前を呼ぶ。
「……これからもさ、私のこと、ちゃんと見ててね」
「当たり前だ。目も、この手も、離さねえから覚悟しとけよ」
さっきとは違う、ふわふわとした優しい笑みがその言葉とともに返ってきた。