「休みもらってきた」
遠慮なんていう言葉を知らないのだろうか、もうゼストはノックすらしてこなくなっている。
で、何だ。休みもらってきたってか。たぶん普段のゼストが休みをもらいに行ったってそう簡単にくれはしないのだけれど(とくにソウヤさんの場合はなかなか頷いてくれない)たぶん私が風邪にやられて熱を出したということで了承してくれたのだろう。……いつの間にやら私とゼストはセットになってしまっているらしい。
「あ、そう」
看病くらいしてやる、とは言っていたけれどこいつにまともな看病ができるなんて思っちゃいない。まあリョウくんに怪我させられたときは驚くくらいのスピードで手当をしてくれたのだけれど、手当と看病は違うからね。
「本格的な冬はまだまだ先なのになんでこんな季節に風邪なんか引いてんだ」
「こんな季節だから風邪を引いたんですー」
「ほぼほぼ冬だろ。一歩手前だろ。衣替えとかしてなかったのか」
「めんどくさかったから後回しにしてた。本格的な冬が到来してからでもいいかなって」
「やっぱバカだな、お前」
「バカだったら風邪なんか引いてない。風邪うつしてやろうかコラ」
「俺はバカだから風邪は引かねえんだよ」どや、とこちらを向く幼馴染。いやそこ誇れるところじゃないから。ドヤ顔する場面、おもっくそ間違ってるから。やっぱバカだこいつ。
だけど。
「……ねえ」今なら、言える気がする。ずっとずっとどこかで閉じ込めていた気持ちを、今ならちゃんと伝えられる気がする。
「ありがと」
「……………………何だよ急に」
怪訝そうな顔でこちらを睨むような目つきで言うゼスト。突然何を言い出すかと思えば、みたいな顔をしている。まあそれもそうなんだけどさ。でも、今言っておかないとまた言えなくなってしまいそうな気がするんだよね。
風邪がもたらした熱のせいなのか、“母親”とのことがあったせいなのか、はたまた別の何かが関係しているのかは定かではないが、なぜだか今日は今まで言えずにいた一言が流れるように素直に出てきた。
うるさい、素直に言ってやってんだから素直に受け取っとけ、なんて普段の私なら言っていたんだろうけれど、今日はどうしてかその言葉すら出てこない。
「言いたかっただけ。気にしないで」
言いたかっただけ。ただそれだけの理由で、きっと十分なんだ。今しか言えないと思うから。それ以外に、他の理由なんてきっと何もいらない。