「誰がおとなしく帰るもんか」
勝手に産んで勝手に捨てておいて、何が「おとなしく戻ってきてくれると思った」よ。どこまで利己的になれば気が済むの。
「私は――」
――ケリつけてこい。お前なんか大嫌いだって言ってこい。
思い出すのは、いつだって“汚らしい男の子”の声や言葉やその姿ばかり。その人の全てから元気や勇気をもらい続けてきた。励まされたこともあった。迷惑をかけたこともたくさんあった。
でも。それでも。
私をちゃんと見つけてくれる。私の名前をちゃんと呼んでくれる。私のことを好きだと言ってくれる。抱きしめてくれる。キスだってしてくれた。
「私は彼が……ゼストが大好きなの!」
ごめんねゼスト。ゼストから言われたことはどうやらできそうにないみたい。今の私には“母親”のことなんてどうでもいいみたい。“母親”は大っ嫌いだけど、お前なんか大嫌いだと吐いてしまうよりも、私はゼストが大好きだと言ってしまう方がいいらしい。
「あんたなんかに決められた“完璧な許嫁”なんかより私が自分で選んだ“汚らしい男の子”の方がずっといい! 誰よりも優しくて頼もしくて強くて……私はそんなゼストが誰よりも好きなの! あんたが何と言おうと私はゼストから離れる気は微塵もないの!」
お前なんか大嫌いだと言うことはできないようだけれど、ゼストが大好きなんだと言うことでそれを伝えようと思った。大嫌いなんて言わなくてもこの“母親”は知っているはずだから。知っているうえでこうしてここに来ているのだから。
でも、私の帰る場所は“母親”のところではないから。だから私は、言ってやるんだ。
「私の家は“ここ”なの。私の家族はこの『家』にいるみんななの」
そうだ。私の家族はあんたなんかじゃない。
「血の繋がった母親より血の繋がっていない連中を家族と言ってしまうのね、あんたは」
この“母親”の冷淡な顔は変わらない。当たり前だ。あんたなんかが家族でたまるもんか。
血の繋がった母親? だから何。血が全てだみたいな言い方しないでほしい。確かに私はあんたの娘。その固定された事実は変えられない。でも、あんたは血なんて関係ない位置にいた。血なんて関係ないところに私を捨てた。
「……どこまでも自己中心的なのね」呆れ顔でため息をつき、そいつは言った。どこまでも自己中心的なお前にだけはそんなことを言われる筋合いはない。
「私が被る損害も考えてちょうだい。“完璧な許嫁”がせっかくあなたに会いたいと言っているのに、これじゃあ水の泡じゃない」
「――――泡になって消えときゃいいだろ。お前も、その“完璧な許嫁”も」



