誰にも見えないその影を




応接間に突撃したところで得はしないと思う。だけどこのまま言いたい放題言わせてしまったら私が一番後悔する。何を言おうか、何を言うべきか。そんなことはあらかじめ考えておかなくても自然と言葉に出てくる。


「――何も知らないくせに」


お嬢様? お姫様? 許嫁? バカじゃないの。どの時代を生きていると思ってんの。


好きな人くらい、一緒にいたい人くらい、自分で決める。


応接間にいる全員――アスタさんとソウヤさんと、そして“あの人”の視線が私に向けられる。でも、そんなことはもう気にしない。誰が見ていたって関係ない。私の気持ちは決まっているんだもの。


「あらルナ、こんなところにいたの」


「……あんたなんかに呼ばれたくない」


そうだ。こんな母親気取りの奴に私の名前なんて呼んでほしくない。今さら呼んだってもう遅いんだから。“それ”が欲しかったのは、もう昔の話なんだ。今はもう、“彼”の声だけで十分なんだ。“彼”が呼んでくれるなら私はそれで幸せなんだ。それくらい大好きなんだ。


「“あの男の子”には呼んでもらいたい、と。そういうことかしら?」


この言い方。この顔。全部全部、大っ嫌いだ。子供は親を選べないと言うけれど、こんな親のもとに生まれてきてしまった私は一体どうすればいい? だけど。でも。負けちゃ、ダメだ。


「そうね。あんななんかに呼ばれるよりその“汚らしい男の子”に呼んでもらえる方が何倍も幸せだわ」


全部全部、吐いてしまえばいいんだ。相手は大っ嫌いな“母親”なんだから遠慮なんて一つもいらない。自分勝手に動いてきた人間に自分勝手なことを吐いたって何の問題もない。


「お嬢様だか何だか知らないけど、どなたかと見間違えてるんじゃないの? 私は“汚らしい男の子”が似合う女の子ですから、あんたの求めてる女の子はここにはいないの。他をあたってくれる?」


冷淡な態度は得意なの。なんたって私はあんたの“娘”だから。あんたが私に向けてきた“それ”を、私が見逃すはずがないでしょう? ほら、似た者同士でお互いが納得するまで言い合えばいいじゃない。


私はもう逃げないし、負けないんだから。


「……おとなしく戻ってきてくれると思っていたのだけれど、私の見当違いだったようね」


とんでもなくじゃじゃ馬なお姫様に育ってしまったものだわ、とそいつ。私にはじゃじゃ馬程度がお似合いってことなのよ。お嬢様だのお姫様だの許嫁だの、そんなものはいらない。邪魔なだけだ。