もうどれくらいの時間をこうして過ごしていたのかわからない。ほんの数分なのかもしれないし数時間経っているのかもしれない。短いにせよ長いにせよ、雨の音は変わらなかった。というよりもさらに大きくなっているような気さえした。
豪雨と呼んでもおかしくないくらいの音。心なしか身体に当たる雫も大きくて当たる瞬間に少しの痛みを感じる。嵐でも近づいているかのような雨。そんな雨の音しか聞こえない世界も、そう悪くはない気がする。
だけど。
「おい」
こんな豪雨の中でも、その声だけははっきりと聞き取れてしまうことに喜びを感じている自分がいる。安心感を抱いてしまう自分がいる。
「勝手にどっか行ってんじゃねーよ」
……そっか。探してくれる人が、見つけてくれる人が、見てくれている人が、すぐ隣にちゃんといたね。誰よりもカッコよくて頼もしくて、私の――
「お前を探す俺の身にもなれってんだ」
大好きな人が。
大雨の中でも響いたその言葉を耳にするのは、初めてじゃない。忘れてしまった頃に、鮮明な記憶はやって来る。いい意味でも悪い意味でも。
「つーか、お前はこんな大雨の中でなに一人かくれんぼやってんだ。バカなのか。バカなんだろ」
「……大雨の中傘も差さずに外に出るバカなあんたに言われたくない」
あのときと、同じ光景だ。
あのときもこんな風に雨が降っていて、私はかくれんぼの途中でこの葉っぱの陰に濡れながら座っていて、そんな私を私以上に濡れながら探してくれる人がそこにはいて……。
「このままでいいのか」
いつだって私のことなんかお見通しだみたいな言い方も、飄々とした態度も変わらない。彼の言う「このまま」というのはきっと“あの人”とのことだと思う。でも。私にはもう。
「……関係ないわよ」
そう。関係ないんだ。今さら「母親です」なんて名乗り出られたって迷惑なだけだ。知らんふりをしていたくせに。側にいてくれなかったくせに。興味なんてこれっぽっちもなかったくせに。捨てたくせに。
「私にはもう、関係ない」
あんなの、もう母親なんかじゃない。10年も放っておいて、どのツラ提げて来てんの。本当に、何が目的で来てんの。
「あっそ」この短い相槌に、私は彼に呆れられたのだと思った。でもそういえば彼はそんな単純な人間ではなくて。「じゃ、帰るぞ」
帰る、とはつまり『家』に帰るということなのだろう。というかそれしか考えられない。“あの人”がいる『家』に帰れと、そういうことなのだろう。
だけど。



