やることがない。暇を持て余している。今の私はまさにその状態だった。任されている仕事もないし、だからといってどこかに出かけようとも思わない。出かけたって私一人じゃどうせ誰にも認識されないし、機械だって私をいないことにするんだもん。街中が、世界中が私をそうやっていじめるんだもん。酷い話だよね。
だけどこの『家』に閉じこもっていたって暇なだけだしなぁ……。どうしたものか。ていうかもう11時回ってんのかー。そういえば朝から何も食べてない。さっきから妙にお腹が飢えを訴えていると思ったら、なるほどそういうことね。ご飯のことを忘れるくらい暇って……どんだけなの。まあいいや。
だらだらと寝そべっていた身体をのっそりと起こし、だるさ満開の足取りで部屋を出てキッチンに向かった。暇というものは人間をこうもダメにするのだと知った瞬間です、はい。
え? 妖怪のせいなのねそうなのね、ですって? いやいやそんなわけないし。アレはアニメの中の話だし。私の背後にダリスなる妖怪なんていませんよマジで。私には妖怪なんてウォッチングできませんから。友達にもなれませんから。私はポケットに収まっちゃうモンスターの世代ですから。
と、いうわけで。なんだか世代の違うよくわからない話のことを考えているうちにキッチンに着いた――わけではなくて、その途中にあるこの『家』の中で割と広い面積を占める応接間から声が聞こえた。
そういえば今日はゼストが起こしに来なかった。いつもならいじめレベルの起こし方を毎日のようにしに来るはずなのに、今日は私の好きなタイミングで起きた。この応接間に至る間も、誰とも遭遇しなかった。私なんかのことよりも大事な話があるのだろうか。……まあどうせみんなには私の存在は認識できないわけだし、無理もないか。
なんてこれまた呑気に考えながらその扉の閉まった応接間の前を通り過ぎようとすると、すーっとその扉が開き、私のいる廊下と応接間が繋がる。
「ル…………」
私が声をかけなくても名前を呼んでくれるのはこの『家』にたった一人しかいなくて、でもその瞬間その人物は呼ぶことを躊躇った。彼の背中に広がる世界の誰にもこの名前を聞き取られてはいけないような、そんな様子だった。
「あれ、何して――」
何してんの、と最後まで言わせてくれないまま彼もといゼストは私の手首をつかみ、この前みたく強引に彼の部屋へと私を引きずっていった。
え? 何? 何なのほんと。私キッチンに行きたいんだけどなんか同じ道通ってない?
混乱するばかりの私の脳はそんなことしか考えられなくて、もちろん彼のこの行動も理解できなかった。



