「――それでですねー……」
ああもう限界。話は続かないし相手も聞き飽きましたみたいな顔してるし私も話し疲れましたみたいな顔してるし事実疲れてるしもうどうしたらいいかわかんない!
早く来いよゼストのバカヤロー。もう私がこっち来て15分は経ってるんだけどどんだけ時間かかってんの!
ていうかこのお父さん、ときどき私を見失ってるんですけど何なのマジで失礼すぎじゃない!? 目の前にいますけど的発言を何度したと思ってんの? もうさー、ほんとさー、地味に傷つくからやめてくんない? そういえば最初に依頼してきたときもそうだったよねあなた。
聞こえていないことをいいことに心の中で悪口をぶつけまくっていると、
「お父さん!」
リョウくんの元気な声が聞こえた。そしてすぐに私の横を通り抜け、お父さんの足に抱きついていく。その顔には満面の笑みが戻ってきており、さっきの泣き顔は何だったのかと思わせるほどである。
その後ろからだるそうな足取りでゼストがやってくる。けれどもそいつもなんだかやりきったような表情を浮かべている。この二人の間に何があったのかは知らないけれど、まあ結果的にはゼストがリョウくんを引っ張り出してくれたということなのだろう。どんな手を使ったのかは知らないでいる方がいいかもしれない。
「……ご苦労様。ありがと」
おー、とこれまた同じ返事しかない。何か隠してやがるなこいつ。まあ聞きたくもないけれど。
「三日間、本当にありがとうございました」
深々と頭を下げる父親。いえいえとんでもございません、と言いつつもここは保育園じゃないのでもう預けるなんてことやめてくださいねと心中で言っておく。これぞまさに本音と建前ってやつね。
……あらまあこのお父様ったら、やっぱり私の方は見ないのね。さっきまで私が丁寧に対応していたというのにリョウくんが来たこの一瞬で存在を忘れるとかどんだけなの。マジで私を傷つけにきてんの?
それじゃ、と玄関に背を向けて歩き出そうとした途端「ねえねえルナ」とリョウくんに手招きされる私。
わけもわからず無邪気な少年に顔を近づけると、
「――――なっ……!」頬に、今朝知ったばかりの感触が。
びっくりして頭が真っ白になって口をぱくぱくさせていると、
「お兄ちゃんとずっと一緒にいてあげてね」
なんて、どこで覚えたのか知らない言葉を耳元で囁く。たぶんゼストの仕業だ。ほんと、私の好きな人は子供に何を吹き込んじゃってんだか。きっと恋も愛も知らないであろう幼い少年に先を越された気がしてちょっとだけ悔しくなる。
「わかってるよ」
にっこりと微笑んで、そう返した。言われなくてもわかってる。離れるわけがないじゃない、という言葉は自分の中にしまっておくことにした。
「じゃあね。また遊びにおいで」
ゼストと一緒にいてあげて、と言った少年の背中を見えなくなるまで見届けた。あの少年はどんな恋をするのだろう。どんな女の子と一緒に過ごすようになるのだろう。
どんな子を好きになったとしても、私のような遠回りはしないでほしいと思う。まあその頃にはリョウくんももう大人になって、私のことなんてすっかり忘れているんだろうけれど。
どたばたした三日間。こんなにも疲れた三日間は初めてだった。



