誰にも見えないその影を




「――さんじゅうごー、さんじゅうろくー、さんじゅうななー……」


向こうの部屋からゼストのウントする声が聞こえてくる。リョウくんと話している間に隠れる時間がどんどん減ってきていたらしい。これ以上のんきに話してらんない。


「リョウくん、早く隠れよう」


顔を合わせるなり二人で一緒に頷いて、そして私とリョウくんは別々の方向へと隠れる場所を探し始めた。


まだ隠れるどころか隠れる場所すら決まっていないのに、見つからなかったらどうしようという不安が湧いてくる。気づいたときにはもうかくれんぼが終わっていたら……。バカバカしい考えだということはわかっているしゼストなら見つけてくれると確信しているけれど、でも、昔のトラウマだったり嫌な思い出だったりというものはどれだけ長い時間が経とうとなかなか素直に消えてくれない。隙あらば必ず出てくる。何が悪いって、弱くて脆い私が悪いんだけれども。


――……とにかく隠れなきゃ。


頭の上に音符を浮かべながらルンルンと隠れ場所を探しに行ったリョウくんの背中を一瞥して、私も自分のことに集中し始めた。まさか16歳になって再びかくれんぼをするなんて思ってもみなかったから、どこに隠れられるのかなんて全然把握していなかった。


こりゃ見つかっちゃうな。遅いか早いかで言えばきっと前者だと思うけれど、それまで私の精神が耐えられるかどうか……。隠れている間にあの記憶が出て来なければ、きっと大丈夫。大丈夫……。そうやって自分に言い聞かせておけば耐えられると思った。


とりあえず押入れの扉を開け、できるだけ奥まで頭を入れてみる。中には大きさの異なる段ボールがいくつかあって、しかも乱雑に入れられているからその陰に隠れておけばしばらくは見つからないと見た。


この段ボール……用なしなら処分してしまえばいいのに。心の中でブツブツと呟きながら押入れに足を踏み入れ、音を立てないように扉を閉めた。真っ暗な世界が広がった。


……やっぱりちょっと、怖いかもしれない。


暗くて、狭くて、誰もいなくて。自分の吐く息の音以外は何も聞こえなくて。暗闇に目が慣れるまでは何もわからなくて、見えるものも何もなくて。みんながまた消えてしまったような感じがして。





「――――見つけた」





光と共に届いた声にほっとしてしまうのは、不可抗力だ。


「ルナお前、また泣いてんのかよ」


また、という言葉が私をさらに解放させてくれる。いつの間にか私の頬に伸びていた『彼』の手が、小さな雫を拭っていく。


「…………泣いてないし。汗だし。この中暑いし」


「………………………………」


「………………………………」


「ほんとだもん。信じてないでしょ」


「……ま、そういうことにしといてやるよ」


相変わらずのやりとりしかできないけれど、それでもどうしてか安心する。心地よく感じる。その理由はわかっている。たった一つの、その理由。


ゼストが好き。ただそれだけ。