誰にも見えないその影を




「リョウくん」


ゼストの部屋に行って、まだ気持ちよさそうに眠っているリョウくんの肩を揺らした。時計を見ればもう午前10時30分を過ぎている。そろそろ起こす時間だろう。寝起きが悪いのか、安定した眠りを妨げられて少し機嫌が悪いようにも見える。あと5分だけでいいから寝かせろ。少年にそう言われそうな感じがした。でも、違った。


「ん……ルナ?」


大きなあくびをし、目をこすりながらぼんやりとした視界の中で私を捉えた少年は、目の前の人物が私であることを確かめるように尋ねた。


「そうだよ。おはよう」昨日のこともあって、謝るという意味も込めてにっこりと笑って見せた。


そういえば、リョウくんと過ごせるのも今日で最後か。出会ったばかりのときは口も悪くて失礼でとんだ悪ガキだと思っていたけれど、今ではもうすっかり素直な男の子だ。


「……ちょっと、老けた?」


……訂正。失礼な部分は未だご健在らしい。


誰が老けただバカヤロー。こちとらまだ16だわ。最年少だわ。まあある意味ではどこぞの誰かさんたちのおかげで私が一番苦労しているけれども! そういう意味においては確かに老けているかもしれないけれども!


「……あのね、起き上がって開口一番それはやめようか」


華のセブンティーンと言われる17歳なんてまだ先なんだからね、咲いてすらないからね。まだ蕾だから、私。そんな未来ある蕾が芽も出てない世間知らずなお子ちゃまにおばさんのような扱いをされてたまるかっての。


「ねえねえルナ、今日は何やんのー?」


はい出ました鮮やかなスルー! こういうとき子供って残酷だよね!


「ほらルナ、リョウお坊ちゃんが退屈してんぞ」


うるさいんだよお前は! 自分に向けられてないからって私の前で余裕こくなよ腹立つ!


「……なんでもしてあげますよ、リョウお坊ちゃま」


できる限りのことしかできないけど、というのは心の中だけで呟いておくことにする。まあ昨日は邪魔も入ったしリョウくんにもいろいろと悪いことしちゃったし、なるべくご要望には応えてあげないとね。


じゃあねー、と嬉しげに考え出す無邪気な少年。たまに出てくる余計な一言がなければ素直で可愛い男の子としていろんな人に気に入られると思うんだけどなぁ。


「かくれんぼ!」


このパターン、初めてではない。最も出てきてほしくなかった、その遊びの名前。思い出したくもない記憶が、そのたった一つの遊びの名前によって勝手に蘇ってくる。


視界の中にいるゼストも、少しぎょっとしたような表情を浮かべていた。きっとこれを契機としてまた私がおかしな思考に走るとでも思ったのだろう。


――でも。


「いいよ。やろう、かくれんぼ」


快く承諾できたのは、きっとゼストのおかげだ。まあそんなことは口が裂けても本人には言ってやんないけど。