少し、今の状況とやらを整理させていただきたい。


私は昨日のことで自分の存在というものを改めて、そして今までの自分の認識以上に知ってしまって、もうそれが嫌になってリョウくんにも八つ当たりして部屋に籠って、自分が知ってしまった現実から逃げたくて眠りについた。


誰かの声が聞こえた気がして目を開ければ、なぜかそこには私の幼馴染兼好きな人がいて……そして今に至る。


……バカなのか私は。目の前に彼がいることにこの上ない安心感を覚えている。自分で選んでこうして一人になれる空間に閉じこもったというのに。


どうして。


どうして私は今、彼に包まれてしまっているのだろう。


「今日は“ここ”にいろ」


どうしてそんな彼の短くて素っ気ない言葉に、ほっとしてしまうのだろう。


どうして彼のぬくもりが、彼とのこの距離が、この感覚が、心地いいと感じてしまうのだろう。


どうして。どうして。どうして――。


わけがわからなくてたくさんの「どうして」が出てきて、でもずっとこのままの状態でいたくて、私は動かなかった。きっと今の私は、何とも言えないような顔をしているに違いない。そんな風に予想できる自分の顔を彼に見られたくなくて、私は隠すように顔を彼の胸に埋めた。


――はずだったのだけれど。


どうしてか頬に温かさを感じている私の視界の中には彼のそれはそれは穏やかな顔があって、彼の瞳の中には私しか映っていなくて……。


お互いの瞳が交わっていることがじわじわと感じられた。逸らそうにも逸らせないし、彼もまた逸らす気はないようでじっと私を瞳の中に捉えている。


――見ないでよ。


声にならない言葉は、もちろんのことながら届くはずもない。


そんな、大事なものを見るような眼で見ないでよ。


これ以上は耐えられなくて、おかしくなりそうだった。ばくばくとうるさくなり始めた心臓の音も、この距離だと確実に彼に聞こえてしまう。こういうときに限って鋭い部分がある彼のことだ、きっと感じ取ってしまうに違いない。


とにかく眼を合わせないでいよう。そう決意して少しずつではあるけれどもなんとか眼を逸らそうと瞳を動かした、そのときだった。





「――――――ルナ」





私の名前を優しく呼ぶその声に、私の思考とそれに伴う身体の動きは一瞬で停止する。


そしてせっかく逸らした眼を彼によって再びピッタリに合わされ、私の頬はまた彼の大きな手のぬくもりに包まれる。


気づけば唇にも普段は感じられない人の体温があって、それは触れるだけの、離れるには儚すぎるものだった。