「――……い」


ぼんやりとした世界の中で、誰かの声が聞こえた気がした。でもきっとそれは私に向けられたものではないのだろう。私を認識してくれる人なんていないんだから。……でも。


――キミ、だけは。


「おいルナ。いつまで寝てんだ」


「な……!!」


輪郭すら見えなかった声が急にはっきりと耳にまで届いてバッと身体を起こしたその瞬間、私の中の全ての機能が働きだす。まだ起きたばかりだというのに脳までもがすっかりと起きてしまっていて、嫌というほどに現状を簡単に理解できてしまった。……デジャヴ。


部屋には窓からの真っ白な光がすみずみまで差し込み、日付が変わり朝を迎えたことを知らせていた。


ていうか姿を見る前から全身が起きるってどうよ。なんで全部わかっちゃうかなぁ。バカじゃん私。こういうときこそ知らんふりできるようになってもらいたいものだ。


……あれ。え? ちょっと待って。


「……なんで私の部屋にあんたがいんのよ」


そう。私を起こしたのが誰か――つまるところゼストの声であるということはゼストがどうしてか私の部屋にいるということなのだ。いや朝になればそいつは私を起こしに来るのだけれど、これはいつもと違いすぎるぞ……!


なんだこの不意打ちな感じは。いつもは私を蹴ることで起こしてるくせになんなのホント。そういえばゼストが怪我をして意識を失ってしまって、目を覚ましたときもこんな感じだったっけ。


……気持ち悪いを通り越して腹が立つ。こんな不安定なときに限って優しくすんなバカヤロー。


――幼馴染なめんな。


いつだったかゼストが放ったあの言葉が無神経に出てくる。何よもう。揺れちゃうじゃん。





………………――頼っちゃうじゃん。





こういう状態のときのゼストには何かしらの目的があることを私は知っている。そしてその目的なるものの正体も、不本意ながら私は理解してしまっている。ゼストのことだ、昨日のことを話せとでも言うつもりなのだろう。


わかってる。わかってるけど……。


「……………………」


切り出し方がわからないのも、言った後のことが怖いというのも事実であって。


「……お前」そんな彼の短い声にさえびくびくとしてしまう。


わかってる。わかってるんだよ。聞かせろって……言えって言いたいんでしょ? 言えばいいんでしょ?


言う。言うよ。だから、ほんの少し。ほんの少しだけ、時間を――。





「今日は“ここ”にいろ」





「え……?」


予想もしてなかった言葉が、今までと違う言葉が、一度だって聞いたことがなかった言葉が、私を貫き、そして混乱させた。