誰にも見えないその影を




【ゼストside】


ルナの部屋の扉はほんの少しだけ開いていて、外から見る限りでは閉じこもっているというような様子ではなかった。だがしかし、問題はその扉の向こう側だ。薄い扉一枚で隔てられたその中には、きっとルナにしかわからない世界になっているのだろう。


扉に手をかけようとするが、その手は空中で動きを止める。あいつにしかわかってやれないような空間に、俺が入ってしまってもいいのだろうか。そんな躊躇いが、ふと俺の頭の中を横切ったのだ。


……だが。


きっと彼女は、また以前と同じように自分の中で自分自身を閉じ込めてしまうに違いない。幼馴染だからこそわかる。


あいつが好きだからこそ俺にはわかる。


自分で言えないのだ。言うことを怖がっているのだ。遠慮ももちろんしているだろうし、ルナのことだから迷惑をかけるなんてことも考えているのだろう。


あいつはどうしてこうバカなんだか、幼馴染の俺にもわかんねえや。迷惑だなんてこの『家』の連中は思わないだろうし、俺にいたっては大歓迎だっつーの。頼るっつーことをもうちょっと覚えやがれってんだ。


あいつに聞こえないことをいいことにそんなことを頭の中でブツブツと愚痴っていると、さっきまでの躊躇いなんてどうでもよくなってきた。何に遠慮していたんだかもすっかり忘れてしまって、俺はノックもせずに目の前の扉に再び手を伸ばし、そして開けた。


いつもなら開けた後すぐにルナは「なに勝手に開けてんのバカ」という罵声を浴びせやがるのだが、今日はそれがなかった。扉の先の部屋では帰宅してすぐに籠ってしまった幼馴染が布団を敷いて寝ていたのだ。


なぜだかイライラしていたそいつ。誰にも言えなくて俺にすら黙っていて……。八つ当たりくらいすればいいのにと思う。


眠るならそんな不安そうな顔なんてせずに、何も考えずにすやすやと眠ってほしいものだ。涙の痕跡なんて残さずに、涙から全部俺にぶつけろっつーの。


「……明日は」そっと呟いた。


きっと今日はもうルナが起きることはないだろう。体力的な疲れよりも精神的な疲れの方が大きいだろうから無理に起こすわけにもいかない。かといってこのままの状態を放置しておくわけにもいかない。こういうときのルナの行動は危ないのだ。


「明日はちゃんと話せよ」


隠すなよバカヤロー。何よりも大切な幼馴染にはきっと聞こえていないであろうその言葉を、彼女の隣に残した。


もう、ほんの一瞬でも目を離したりなんてしないから。