誰にも見えないその影を




自分の部屋は、なんだか空っぽな感じがした。けれど、それが気のせいではないこともわかっていた。


誰にも見えない、私だけの部屋。通路にされるし私がいてもみんなお構いなしに通っていくし。それが日常で、“みんなには私が見えない”ということも日常の当たり前のことで。


でも……。


でも、リョウくんがここに来てからそれが壊されてしまって、“誰かに見てもらえる”ことが当たり前になりつつあることに危機感を覚えているのも事実で。


誰にも気づいてもらえないという今まで“当たり前”だったことがそうでなくなっていくのは、私にとっては致命的な現象だ。だからこうして部屋に一人でいることを選んだのだけれど、気づいてもらえることに慣れすぎてしまって正直きつい。


「……狂わせんな、バカ」


誰に向けたわけでもない、行き場のない感情。


まだ、明日もある。まだ、一日ある。今までの“当たり前”を今日取り戻せたとしても、きっとまた明日で忘れてしまうのだろう。


リョウくんはいい子だ。たまにうざいことも言うけれど、あんな風に話しかけてくれること自体はものすごく嬉しい。嬉しいからこそ、私は自分の影の薄さを余計に忘れてしまうんだと思う。


……今日はもうこれ以上何も考えないで眠ってしまおうか。その方がきっと楽だ。


布団を敷いて、横になった。目も脳も、眠りを求めている。まだ夕方だけれど、みんなの中に入りたくはない。身体中がそのことを理解していた。


視界がだんだんと狭くなっていく。意識はもう、ふわふわとしたまどろみの中だ。


子供を連れて歩いたからなのか、普段は会わないような人たちに会ったからなのか、それともいろんなことを考えすぎたからなのかは定かではないが、とにかく疲れた。眠かった。


心なしか布団までもがいつもよりふわふわとしていて心地よく感じる。ただでさえ今にも眠ってしまいそうなのに、眠れ眠れと言われている気がする。……ていうか、言われなくても眠るってば。


もう感覚すらもなくなっていく。何を考えてもそれらはすぐに脳の外へと走り去っていく。


扉がすーっと開く音がしたような気がした。気がしただけで開いたのかどうかはわからないし、たとえ開いたとしてもどうせ誰かが通っていくだけだからどうでもいい。


「……――――――――」


全てがシャットダウンした世界の中で、誰かの声がかすかに聞こえたような気がした。聞こえたと断定できないのも、私の中の全ての機能が停止しているからなのだと思う。


そこからのことは、何も知らない。