誰にも見えないその影を




午後5時頃になって私たち三人は『家』に帰ってきた。


「お、ゼストにガキんちょ。遅かったな」


偶然玄関前の廊下を通りかかったソウヤさんがこちら(厳密に言えばゼストとリョウくん)に気づき、言った。その声に気がついたのか、シフォンくんも奥の方からとことこと出てきた。どうやらみんなもう仕事も終わって帰ってきているようだ。


「ゼストさんリョウくん、おかえり!」


……バカか私は。何をいちいち落ち込んでんの。こんなの日常茶飯事だったじゃん。これが“当たり前”だったじゃん。なんでこれが異様みたいに感じちゃってんの。


他人と関わるとロクなことがない。こうやってみんな、私の“当たり前”の感覚をゼロにしていくんだから。ゼストもリョウくんも、シドさんもシュンタくんもハツネちゃんも。


それを取り戻すには、“普通”に戻すには、しばらく一人にならなければならない。どんだけの時間を要すると思ってんの、ほんと。


私はリョウくんから手をすっと離して、一人自分の部屋に向かって歩き出した。一人にならなきゃ。そんな歪んだ使命感が私をただただひたすら部屋へと動かそうとしていた。


「ルナ……?」


リョウくんが不安げに私を呼んでようやく「ルナ、お前もお疲れだったな」「ルナさんもおかえり」と二人が言う。……そんな時間差、いらないっての。


「どこ行くの?」


「私の部屋」


「僕も行く! 遊んでー!」


「やだ」


何にイラついているのかなんて私にもわからない。もしかすると何にもイラついていないのかもしれない。でも、このどこにもぶつけようのない感覚を捨ててしまいたいと思っているのも事実で。そしてそれが今にもリョウくんに向かってしまいそうなことも理解していて。


だからこそ、私は一人にならなきゃいけないんだ。


遊んでと言われたらもちろん遊んであげたい。でもそれは私が“正常”だったらの話。今はなんだか、リョウくんを傷つけかねないような気がする。肉体的にじゃなくて、精神的な傷を負わせてしまいそうなのだ。


「えーどうして? 遊んでよー」


「ゼストに相手してもらえばいいでしょ」


「ルナがいいー」





「うるさい!」





……ああ、もうダメだ。嫌だ。こんなこと言っちゃダメなんだ。


「……お願いだから話しかけないで。一人にして」


もう、嫌われた。リョウくんはもう、私のことは嫌いだ。遊んでもくれないし突き放すし、急に怒り出すし。


私も嫌だよ、こんな自分。だからごめんね。


「…………………………」