それから黙ったまま歩き、薫のマンションの前までたどり着くと、志信はほんの一瞬薫の顔を見つめて、じゃあね、と背を向けた。

遠くなっていく志信の背中を見つめながら、薫はため息をついた。

(これで…いいんだよね…。)




志信は足早に歩きながら、さっきの薫の言葉を思い出してため息をついた。

(さすがにヘコんだな…。フラれっぱなしだよ…。オレの事なんて、ただの同期くらいにしか思ってないんだもんな…。)

やっと少し距離を縮められたと思ったら、“ここから先には入らないで”とでも言うかのように、ハッキリと線を引かれる。

(オレの事…そんなに迷惑…?)

どうにもならない想いが、志信の心をしめつけた。

(最初っから“有り得ない”って言われてたもんな…。やっぱり無理なのかな…。)

どんなに優しくしても、どれだけ自分の存在をアピールしても、薫の心には触れる事ができない。

(いくら押してもダメなら…少し距離を置いた方がいいのかな…。どうしてあんなに頑なに恋愛を拒むんだろう…。)

どんどん大きくなる薫への想いを持て余して、志信はまた大きくため息をついた。