志信の腕から解放された薫は、思わず半歩後ずさった。

「オレ…こんなの、もう…無理だ…。」

「え…?」

「ごめん…。タクシー代渡すから、あとは一人で帰って。」

志信は財布から五千円札を1枚取り出して、薫の手に強引に握らせた。

「いいよ…こんなの受け取れない…。」

お金を返そうとする薫の手をギュッと握ってそれを制すると、志信は悲しげに笑った。

「じゃあね。卯月さん。」

背を向けて歩いて行く志信の背中を見ながら、一人取り残された薫は、志信の言葉の意味もわからずに立ち尽くしていた。

(どういう事…?)