君に恋していいですか?

離れて行く薫の背中を眺めながら、志信はため息をついた。

(いつも通りなんだな…。)

土曜日の夜のできごとは、薫の中ではお酒に酔った上で起こった些細な事として、なかった事にでもされているのだろう。

(オレはあれからずっと、すっげぇドキドキして卯月さんの事ばっかり考えてたのにな…。)



SS部のオフィスで席についた薫は、パソコンを立ち上げながら、大きく息をついた。

(焦った…。私、おかしくなかったかな?)

土曜日の夜の事を、志信はどう思っているのだろう?

(やっぱり…酔ってたのかな?あんなの、ただの同期のする事じゃないよ…。)

志信の唇の感触を思い出して、薫はそっと額に触れて目を伏せた。

酔うと甘い言葉を言う志信が、“誰にでも言うわけじゃない”と言っていた。

(そんな事…ホントかどうかなんてわからないけど、笠松くんモテそうだから、本気にしたらまた裏切られて傷付くかも知れない…。そんな思いをするくらいなら、私はもう恋愛なんてしない…。)

目一杯意識しているのに、それを精一杯否定して、志信とは今まで通りでいようと、薫はこれ以上心を揺さぶられないように、開き掛けた心の扉を閉ざして、しっかりと鍵をしめた。